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Netflix『ヒヤマケンタロウの妊娠』が“リアル”に感じるワケ――斎藤工の男性妊夫が象徴するものは何か

2022/07/03 10:00
成馬零一
“男性妊夫“をリアルに演じた斎藤工(C)サイゾーウーマン

――『キャラクタードラマの誕生』(河出書房新社)『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ』(宝島新書)などの著書で知られるドラマ評論家・成馬零一氏が、話題の配信ドラマをレビューする。

 現在、動画配信サイト・Netflixで配信されている斎藤工主演のドラマ『ヒヤマケンタロウの妊娠』は、男性も妊娠する世界を描いた話題作だ。

 坂井恵理氏による同名漫画(講談社)が原作で、斎藤は広告代理店で働く主人公・桧山健太郎を演じる。桧山は不特定多数のパートナーと気軽に肉体関係を持つ独身生活を送っていたが、ある日突然、妊娠してしまう。

 その後まず描かれるのは、つわりで吐き気を催したり、射乳反射で乳首から母乳が出てきたりといった、体の変化に桧山が困惑する姿。それと同時に描かれるのは、桧山から妊娠を告げられたパートナー・亜希(上野樹里)が取り乱す姿だ。

 仕事が忙しい亜希は、もともと母親になるつもりはなかったが、このまま子どもを持たない人生を過ごすことにも戸惑いがあった。そんな時に妊娠を告げられた亜希がまず口にしたのは、「それって私の子なの? ほかにも会ってる子がいるでしょ」という、いかにも“男”が言いそうな台詞だ。

 実際、桧山は複数の女性と関係を持っているため、亜希の言うことは間違っていない。だが、産む主体が変化すると、男女の思考も入れ替わってしまうということが、本作では最初に描かれている。

 “男性妊夫“としての意識が桧山の中に芽生えていく過程の見せ方も、とてもリアルだ。「今まで見過ごしてきた社会に潜む不公平や偏見を目の当たりにしてゆく」ことを謳う本作は、「もしも、男が妊娠したら?」という特殊な状況を、体の変化だけでなく、中絶手術にまつわる煩わしい手続きや、桧山と亜希が感じる不安なども含めて描き、見ている人に実感させていく。

 中絶を選択しようとした場面で、医師に自分の性生活におけるプライベートなことを報告するよう促されていたが、これには「心がえぐられる」と感じた。そういった妊娠にまつわる一つひとつのシチュエーションに直面し、困惑する桧山の姿が、見る人にもボディブローのように効いてくるのだ。

 このような「個人」の描かれ方に対して、男性が妊娠する「社会」の描かれ方はどうか。劇中では、50年前に第1号の男性妊夫の存在がアメリカで確認されたものの、現在も人数は少なく、ほとんどが堕胎を選択する状況だと語られる。そのため、男性の妊娠に対する偏見は男女ともに強く、生理的嫌悪感を抱く人が多いことも示されている。

 世間の人々は、表立ったひどい差別こそしないものの、男性妊婦との交流がほとんどないこともあって、彼らを偏見に満ちた視線で語ってしまう。この状況は、マイノリティに対して世間の人々が抱いている差別的な目線を、そのままトレースしているように感じる。

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