韓国ドラマ通が語る、『梨泰院クラス』日本版リメーク『六本木クラス』の懸念点とは?
――韓国と日本の違いという観点を除いた場合にも、『六本木クラス』に懸念を感じる点はありますか?
渥美 『梨泰院クラス』の“精神”を大事にしていないのではないか、という点です。前科者であるパク・セロイをはじめ、彼の仲間たちは、ソシオパス(反社会性パーソナリティ障害)のチョ・イソ(キム・ダミ)、元チンピラのチェ・スングォン(リュ・ギョンス)、トランスジェンダーのマ・ヒョニ(イ・ジュヨン)、ギニア出身のアフリカ系韓国人キム・トニー(クリス・ライアン)といった多様性に富み、かつ、世間から差別されている人たち。そんな彼らが、お互いの差別意識を超えて仲間になり、共に自由を獲得するのが、『梨泰院クラス』の“精神”だと思っています。
しかし、『六本木クラス』の公式サイトを見ると、チョ・イソ役にあたる麻宮葵(平手友梨奈)のプロフィールに、「ソシオパス」の設定が一切書かれておらず、「クールで自己中な性格」とされているんです。彼女が「ソシオパス」ではなく、ただの自己中女として描かれてしまっては、『梨泰院クラス』の精神を無視していることになる。葵にソシオパスの設定を与えないというのはつまり、『六本木クラス』自体が、ソシオパスを認めていないと言っているに等しいわけです。
――「ソシオパス」という設定が本編でも削られていた場合、『梨泰院クラス』ファンから疑問の声が噴出しそうです。
渥美 オリジナルの精神を大事に扱えば、たとえリメークでストーリーが変わったとしても、視聴者は「共通する世界の物語だ」とわかるはず。逆に、精神を大事にしていないと、どんなに似せたリメークでも「違う」と感じるのではないでしょうか。
――ここまで懸念点をお聞きしてきましたが、『六本木クラス』に期待するところはありますか?
渥美 全13話にしたのは、頑張った点だと思います。やはり韓国ドラマを1話45分、全10話では描き切れないということは、これまでの同様のリメーク作品から学習しているのでしょう。『六本木クラス』が、単に『梨泰院クラス』から「前科持ちの若者VS大手企業の会長」という構図とエピソードを借りただけの作品にならないことを祈ります。
【プロフィール】
渥美志保(あつみ・しほ)
映画ライター/コラムニスト。映画『シュリ』で韓国カルチャーにハマり、釜山国際映画祭に通うように。『冬のソナタ』に始まる韓国ドラマ歴は現在も更新中。現在は、「ELLEデジタル」にて「推しのイケメン,ハマる韓ドラ」を連載しているほか、著書に『大人もハマる! 韓国ドラマ 推しの50本』(大月書店)がある。
【著書紹介】
『大人もハマる! 韓国ドラマ 推しの50本』(大月書店)
韓国ドラマ通である映画ライター/コラムニスト・渥美志保氏が、大人が見る価値のある50作品をセレクト。『王になった男』『ヴィンチェンツォ』『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』『秘密の森』『賢い医師生活』『キングダム』『太陽を抱く月』『オールイン~運命の愛~』『棚ぼたのあなた』などが紹介されている。韓国ドラマのガイドブックとして必読の一冊。