コラム
オンナ万引きGメン日誌

レジ袋有料化から早2年――万引きGメンが「大胆な犯行増えた」と警告

2022/06/25 16:00
澄江(保安員)

 2人を事務所に連れていき、警察官による身体捜検が実施されると、男のポケットから財布のほか、2つのおにぎりが出てきました。財布の中にあった運転免許証によれば、男は21歳。店の近所に両親と4人で住んでいるそうで、今日は小学4年生の妹と一緒に、食事を買うつもりで来たと話しています。運転免許証をもとに男の犯歴照会がかけられると、半年ほど前に刑務所から出てきたばかりであることが判明してしまい、現場の雰囲気は一気に急変して引き締まりました。

「おい、〇×くんよ。あんた、出てきたばっかりじゃないか。まさか、今日はやってないよな。ちょっと、腕を見せてみな」

 どうやら前刑は窃盗と覚醒剤使用によるもので、より細かい身体捜検があらためて実施されましたが、特に不審な点は見つかりませんでした。上から股間を触ったり、その周囲の臭いを嗅ぐなど、変態行為と見紛う調べ方を目の当たりにして、とても嫌な気分になったことを申し添えておきます。

 今回の被害は、計27点、合計で3万6,000円ほど。

 財布にあった男の所持金は2,000円足らずで、すぐに商品を買い取ることはできません。このままいけば逮捕されるに違いなく、気になって女の子に話しかけたところ、特に動揺した様子も見せずに平然としていました。

「お兄ちゃん、今日は一緒に帰れないかもね」
「あたしは帰れる? また児相(児童相談所のこと)に行くの?」
「親が迎えに来てくれたら帰れるよ。お父さんかお母さんは、おうちにいるかな?」
「2人とも仕事で、夜遅くに帰ってくるの。それまでは、児相に行く?」

 以前にも、同じようなことで捕まった経験があると話した女の子は、児童相談所に行くことを恐れてはいないようです。その一方、年齢の離れたお兄さんである男は人目を憚ることなく涙を流して、悲劇の主人公のごとく大声で叫びました。

「逮捕するなら、早くしろ! 金もないし、早くパクれ!」
「どうしてそんなに金ないんだよ?」
「覚醒剤! そんときの借金が、まだいっぱいあるんだよ!」

 妹の存在には構うことなく、言葉を選ばず警察官に八つ当たりして泣き叫ぶ男に、同情の余地はありません。しかしながら、いつにも増して警察官は消極的で、衣類の現認がないことを理由に、被害届の受理に難色を示しています。

「今回は、現認のあるエコバッグ(980円相当)のみ、被害届を受理します。あとの商品は返しますので、それでお願いできますか」

 結局、微罪処分とされた2人は、ガラウケ(身元引受人)を用意することで帰宅を許されました。エコバッグを使い、大胆な盗みを働いても、目撃者の現認がなければ、少し怒られるだけで済むこともある。とてもやりきれない気持ちになった1日でした。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

澄江(保安員)

万引きGメン(保安員)歴40年以上。スーパーで品出しのパートをしている時に、万引き犯を捕まえたことがきっかけで、この世界に。現在も週5日は現場に立っている。

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最終更新:2022/06/25 16:00
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