コラム
“中学受験”に見る親と子の姿

中学受験に「繰り上げ合格」した子はその後、落ちこぼれるのか? “補欠野郎”と呼ばれた息子

2022/06/12 18:30
鳥居りんこ(受験カウンセラー、教育・子育てアドバイザー)

「その時、先生は颯真に『中学受験の合格者っていうのは、仮にもう1回、入試をしたとしたら、半分は入れ替わるって言われてるものだ。オマエ、いつまで1点差にこだわってるんだ? 繰り上げを言い訳にするのは、そろそろおしまいにしたらどうだ?』と喝を入れてくれたそうなんです」

 H学園は受験生に対して、入試の際の得点開示をしている学校。先生は颯真君が当初、1点差で涙をのんだことも承知で、発破をかけてくれたという。

 颯真君は塾の先生に再びの指導を直訴。その塾は地元密着の塾で、高校受験にも対応しているため、小学生だけではなく中学生も受け入れているのだ。

「颯真がまたあの塾に行きたいと言い出した時はびっくりしましたね。ようやく塾生活とはサヨナラできると思っていたのに、また夜もお弁当がいるの? って」

 そう言いながらも、千恵美さんは笑顔を見せた。

 その後、颯真君の放課後スケジュールは、週4の部活と週3の塾で埋まっていたという。中1の期末テストで成績がグンと伸び、中2からは特進クラス入り。以降、高3まで特進クラスをキープし、第1志望の国立大学に入学している。

「この前、颯真に聞いたんですよ。『なんで頑張れたの?』って。そしたら、颯真が『塾の先生に、「繰り上げ合格だから」ってちょっと漏らしたら、「オマエのことは“補欠野郎”って呼ぶことにする」って言われて、めちゃムカついた!』って(笑)」

 これは、颯真君の性格を熟知した先生なりの喝の入れ方だったのだろう。

 確かに、自分が繰り上げ合格者であることを気にする子は多く、親も不安を感じることはあるだろう。しかし、中高一貫校は6年間もある。やはり、コツコツと努力を続けた者の成績は伸びるし、サボった者はアッという間に“深海”に潜りやすい。結局、入試当日の1点差に実力差は全くないということなのだろう。

 颯真君は今、学生アルバイトとして、先生の塾を手伝っている。将来的には学校の先生になって「補欠野郎」も含めた子どもたちの面倒を、みてあげたいのだそうだ。

鳥居りんこ(受験カウンセラー、教育・子育てアドバイザー)

エッセイスト、教育・子育てアドバイザー、受験カウンセラー、介護アドバイザー。我が子と二人三脚で中学受験に挑んだ実体験をもとにした『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などで知られ、長年、中学受験の取材し続けている。その他、子育て、夫婦関係、介護など、特に女性を悩ませる問題について執筆活動を展開。

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湘南オバちゃんクラブ

最終更新:2022/06/12 18:30
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