いつも明るく笑っていた義母だったが……家計簿に書かれていた“本心”
“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)
そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。
義母の苦しみに気づいてあげられなかった
林田由佳さん(仮名・43)の義母が、二度目の脳梗塞を起こしたと連絡がきたのは2カ月前のことだった。
「半年前に最初の脳梗塞を起こして、がんばってリハビリをしているところでした。それが2度目の脳梗塞によって、回復が絶望的な状況になってしまいました。もう意思疎通もはかれません」
医師からは、看取りを視野に入れた施設に移ってはどうかと伝えられた。林田さん夫婦は夫の実家に行き、施設探しや転院の手続きに奔走した。
義母はもう自宅に戻ることはないという現実に、悲しみをこらえながら必要な書類などを探していたとき、林田さんは義母の家計簿を発見した。義母は元の状態には戻らないという医師の言葉がよみがえり、林田さんは面影を探すようにページをめくった。
「すると随所に走り書きのようなメモがあったんです」
林田さんの目に飛び込んできたのは、義父に対する憤りや怒りの言葉の数々だった。
「私たちもこれまで夫の実家に行ったときに、何も感じていないわけではありませんでした。義父が義母に対して言葉を荒げたり、バカにするような物言いをしたりすることがあったんです。義母はいつも明るく笑っている人だったので、私たちもさほど深刻にとらえていなかったのですが、おそらく私たちがいないところでは、もっとひどかったのでしょう。義母はずっと義父の言葉に傷つき苦しんでいたんです。義母が倒れたのも、そんなストレスが積み重なったからではないでしょうか。笑顔の裏の苦しみになんで気づいてあげられなかったんだろう……」
というのも、林田さんも結婚後、夫からモラハラを受けていて、悩みを義母に相談していたのだ。
「実の両親には心配させたくなくて相談できませんでした。義母は私の話を親身になって聞いてくれて、息子である夫より私の味方でいてくれました。無自覚だった夫に私が傷つく言葉を指摘して、根気よく夫の言動を改めさせてくれたんです」
義母のおかげで、夫のモラハラ的言動は少しずつ減っていった。一時は離婚も考えるほどだった夫婦関係も改善した。
林田さんは、義父にはもちろん、夫にも義母の家計簿は見せていない。
「見せてしまうと夫のショックが大きくて、義父との関係も悪くなるのではないか、私一人が胸にしまっておけば済むと思ったんです」