芸能
『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』ヤングケアラーとしての日々の終わり「NYフェスティバル2022受賞記念 ボクと父ちゃんの記憶 ~別れのあと 家族の再会~」

2022/05/16 18:18
石徹白未亜(ライター)

 今回に限らないが、近年の『ザ・ノンフィクション』は、映像に映る実際の会話や雰囲気よりも、ナレーションが「美談」 に誘導していると思うことがある。

 今回では、佳秀が入る介護施設に到着したシーンでの「誰も望まないのに、車はやっぱり父ちゃんが入る介護施設に到着」というナレーション。そして、番組最後「いつかまた(家族)一緒に暮らせる日を信じて」との言葉。

 すでに会話がままならず、おむつをしていても便まみれになってしまうことがある佳秀を施設に預けることで、正直、家族には「ほっとする」気持ちも、そしてそんな感情を持つことへの罪悪感もあるように想像する。

 子どもたち3人は、周囲の同級生たちと比べ「父親の世話をする」という壮絶な思春期を送ってきた。その日々への思いや、また、佳秀との悲喜こもごもの思い出だってあるだろう。

 ナレーションの全体は「施設に預けたくない、家族一緒に過ごしたい」というテイストでまとめられてたが、ナレーションがそう伝えるほどに、実際に映し出されている映像からは、もっと複雑な状況を感じた。

 今作は国際的な賞を受賞したとあり、そうなるとこの美談調の方針が番組として強まるのかもしれない。『ザ・ノンフィクション』の持ち味は生々しさだと思うので、個人的には美談調ではないほうが好きだが、今の時代だとかつての表現は「侮辱的・差別的だ」と反発が起こることも考えられる。「美談調」は時代への対処なのかもしれない。

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