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ドラマ俳優クロニクル

織田裕二、『踊る大捜査線』随一の名場面で見せた魅力――シリアスとコメディを同時にこなす姿に期待すること

2022/05/24 20:00
成馬零一
90年代を盛り上げた俳優の1人(C)サイゾーウーマン

――ドラマにはいつも時代と生きる“俳優”がいる。『キャラクタードラマの誕生』(河出書房新社)『テレビドラマクロニクル1990→2020』(PLANETS)などの著書で知られるドラマ評論家・成馬零一氏が、“俳優”にスポットを当てて90年代の名作ドラマをレビューする。

 1997年に放送された刑事ドラマ『踊る大捜査線』(フジテレビ系、以下『踊る』)は、織田裕二演じる、脱サラして警察官になった主人公・青島俊作が、お台場の湾岸署に配属される場面から始まる。

 署に到着すると殺人事件が起こり、青島は現場へ向かう。しかし、捜査を仕切っているのは本庁のエリート刑事たちで、所轄の青島は雑用ばかり任され、自由に捜査をさせてもらえない――といった展開が繰り広げられる。

 同作は、ケレン味のある映像や音楽の使い方、細かい設定や小ネタが無数に散りばめられていて、何度も見返したくなる情報量の多さが特徴だ。これは、90年代にテレビ東京系ほかで放送された『新世紀エヴァンゲリオン』などのロボットアニメの魅力を積極的に取り入れたものとなっていた。

 また、湾岸署を舞台に複数のエピソードが同時に進行していき、その様子を同時に追いかけていくカメラワークは、海外ドラマ『ER緊急救命室』の影響が強くうかがえた。

 その結果、『踊る』は実写とアニメの魅力を兼ね備えたドラマとしても人気作になったといえるが、一番の肝は「正義のヒーロー」ではなく、組織のしがらみの中で翻弄される公務員として警察官を描いたことにあるだろう。

 劇場映画第1作『踊る大捜査線THE MOVIE』(98年)に登場した青島の台詞「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ!」に象徴される、会議室(本庁)と現場(所轄)の対立こそが、本作が描こうとしたテーマなのだ。

 もともと、コンピューター会社の営業マンだった青島は、会社組織にうんざりして警察官になった。しかし、正義感が強く被害者救済を第一に考える青島のやり方は、規律を第一にする警察組織とは相性が悪く、いつも衝突してしまう。

 劇中では、本庁は「本店」、所轄署は「支店」と呼ばれる。本店から来た警察官僚にゴマをする署長たちの姿を見て、青島は“サラリーマンみたいだ”と失望するが、皮肉なことに、サラリーマン時代に培った営業力こそが、青島にとって最大の武器となっていく。

 そんな青島を演じた織田は、87年に公開された映画『湘南爆走族』で俳優デビュー。その後、『十九歳』(89年、NHK)や『予備校ブギ』(90年、TBS系)といった若者向け青春ドラマに出演する。思春期のいら立ちを抱える不良に見えるが、人懐っこい愛嬌もある青年という二枚目半のキャラクターが受けて、主演作が増えていった。

 そして、91年に主演を務めた恋愛ドラマ『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)が大ヒットし、織田は俳優として本格的にブレーク。本作で演じた永尾完治は、ヒロインの赤名リカ(鈴木保奈美)に翻弄される優柔不断な青年で、等身大の普通の若者を演じられることも織田の魅力だった。

 その後は、医療ドラマ『振り返れば奴がいる』(93年、同)の傲慢な天才医師・司馬江太郎や、リーガルドラマ『正義は勝つ』(95年、同)で勝つためなら手段を選ばない弁護士・高岡淳平といったダーティーヒーローを演じる。一方、コメディドラマ『お金がない!』(94年、同)では、借金を返済して兄弟を守るために外資系保険会社で働く青年・萩原健太郎を好演。

 シリアスもコメディもこなし、二枚目半の普通の好青年も演じられるというのが、デビュー時から続く織田の魅力だが、『踊る』の青島には、これまで演じてきた全てのキャラクターの要素が込められていた。

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