コラム
老いゆく親とどう向き合う【番外編】

「まだ死ねん」と鼓舞する100歳の夫、「死にたい」と泣く妻と生きる“超老々介護”の日々

2022/03/20 18:00
坂口鈴香(ライター)

(C)2022「ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~」製作委員会

 それから2年後。20年の年明け、コロナ前夜だ。文子さんは胃ろうを施されていた。

 良則さんは胃ろうについて聞かれると、「ワシゃせんじゃろう」と言う。それでも家族にとっては、文子さんがどんな状態でも生きていてくれるだけでうれしい。この時の文子さんの胃ろうは延命措置だと思われるし、文子さんの意志も確認できていないだろう。けれども、ここまでの家族の物語を見てきた私たちに、その是非を云々する資格はない。

 春以降、コロナが拡大していく。家族の面会もかなわないなか、文子さんの肺炎が悪化する。危篤状態になった文子さんに会いに行った良則さんの言葉は、大正生まれの男性にとってこれ以上の愛情表現はないだろうと思わせられるもので、胸に迫った。このシーンはぜひ映画館で堪能してほしい。

 そして2回目で最後の「おかえりお母さん」。庭の紫陽花に囲まれた文子さんの笑顔は、再び良則さんのそばにいられるようになったことを喜んでいるようだった。良則さんが100歳のお祝いに好物を食べる姿も必見だ。

 21年。直子さんは呉で暮らす日が増え、101歳になった良則さんとの暮らしを配信している。「幸せな人生じゃったです」という良則さんに、幸せにしてもらえたのはこちらのほうだとお礼を言いたくなった。

 人生100年時代とは、愛する人との別れと悲しみを、ことによると何度も味わわないといけない時代でもある。この映画は、シングル一人娘の遠距離介護の物語ではなく、100歳の夫が認知症となった90歳の妻を愛する物語だ。同時に、良則さんの「生きる」への応援譚でもある。

■映画『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえりお母さん~』公式サイト

3月25日(金)より全国順次公開
監督・撮影・語り:信友直子 プロデューサー:濱潤、大島新、堀治樹 制作プロデューサー:稲葉友紀子 編集:目見田健 撮影:南幸男、河合輝久 音響効果:金田智子 ライン編集:池田聡 整音:富永憲一 製作プロダクション:スタッフラビ 製作:フジテレビ、ネツゲン、関西テレビ、信友家 配給・宣伝:アンプラグド 2022 年/日本/ドキュメンタリー/101 分/ビスタ/2.0ch

坂口鈴香(ライター)

終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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最終更新:2022/03/20 18:00
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