芸能
[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

韓国映画『バッカス・レディ』4つのセリフが示す、韓国現代史の負の側面を背負う高齢売春婦の悲しすぎる人生

2022/02/25 21:15
崔盛旭(チェ・ソンウク)

(C)2016 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED

 ソヨンの過去が推測できる手がかりとして、劇中には4つのセリフが登場する。出てくる順は前後するが、「38따라지(サムパルタラジ)」-「식모살이(シクモサリ、食母暮らし)」-「工場」-「동두천(ドンドゥチョン、東豆川)」の4つだ。ソヨンが自らの過去を語ることはほとんどないが、言葉少なに彼女が口にするこれらの単語だけで、韓国人ならば彼女が「差別と蔑視、貧困」の中で生きてきたことに気づくだろう。

 映画の中盤で、鍾路を追われたソヨンは、新たな立ち場所を求めてソウルの公園をさまよう。そこで本名の「ミスク」と呼びかけられたソヨンは、かつての知り合いと再会し、観客はソヨンが「ドンドゥチョン」という基地村の「米軍慰安婦」だったと知ることになる。そして、恋人だった米軍兵士のスティーブに捨てられ、彼との間に生まれた子どもを海外養子縁組に出したことも。さらに、バッカス・ハルモニの取材をするドキュメンタリー監督に請われて、しぶしぶソヨンは、「シクモサリ」や「工場」で働いた後に米軍慰安婦になったと語る。

 そして終盤、ソヨンはミノ、ティナ、ドフンを誘って遠出をする。そこは38度線近くの臨津閣(イムジンカク)だ。ティナの「お姉さんはサムパルタラジだったのよね?(字幕では「38度線を越えた?」)」との問いかけに対し、ソヨンは遠い目で「その言葉を久しぶりに聞いた」と話す。最後に刑務所で彼女の生涯が終わったとき、朝鮮戦争が勃発した1950年から2017年までを生き、無縁仏となったソヨンの人生の全貌が観客に理解されるのだ。

 コラムの冒頭に書いたソヨンの人生は、こうした手がかりに基づいて想像力を働かせたものだ。さらに、60年代後半、仕事を求めて地方から上京する少女が激増し、「食母」「工場」「バスの車掌」が三大職業だったという社会状況や、町工場が集中していたソウルのチョンゲチョンで、劣悪な労働環境にデモが多発し、70年には活動家のチョン・テイルが抗議の焼身自殺を遂げたといった歴史も加味している。だがその中でも、「米軍慰安婦」についてはもう少し説明を加えておきたい。

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