「普通」の結婚はわからないけど……アラサー女子ふたりの共同生活、『今夜すきやきだよ』の多幸感
「普通ってなんだ?」というのが本作のひとつ、テーマだと思う。周囲から「普通はこうでしょ」「普通はそんなことしないよ」的なことを言われて疑問を感じたり、どうにも息苦しくなったことって、ないだろうか。
ともこもあいこも、私は普通じゃないのか、普通でなきゃいけないのか、ということを考え、悩む。けれど、自分でも同じような「普通の押しつけ」をしてしまうことがある。第4話であいこがともこに指摘されて反省する展開がね、いいんですよ。速やかに、しなやかに自分の価値観を見つめなおし、謝る。かくありたいよなあ、なんて思ったり。
だんだんと彼らは「補い合う関係」から「支え合い、鼓舞し合う関係」に成長していく。結婚観も含めて自分を見つめ直すあいこ。作家として何を描きたいのか突きつめて考え抜くともこ。ふたりが終盤、すき焼きをつつく多幸感にあふれるシーンを、ぜひ一緒に味わってほしい。
蛇足かもだが、最後に書いておきたい。
同性愛含め恋愛の多様性はいろいろなところで言われる時代になってきたけど、恋愛や性愛に興味がない、という人たちの存在も「普通」のひとつになったらいいな、と私は思っている。
人間、自分と違うことはすぐ「普通じゃない」と思ってしまいがちなもの。そんなときに「普通って、なんだろう」「私は決めつけをしてるかも……?」なんて立ち止まって考えられる人が少しでも増えたら……硬い言い方だけど、より良い社会になるんじゃないだろうか。
『今夜すきやきだよ』には同じ思いが満ちているようで、読んでいて嬉しかった。
白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター。「暮らしと食」をテーマに執筆する。 ライフワークのひとつが日本各地の郷土食やローカルフードの研究 。主な著書に『にっぽんのおにぎり』(理論社)『自炊力』(光文社新書)など。
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