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ドラマ俳優クロニクル
長瀬智也、『池袋ウエストゲートパーク』以前の未完成な存在感――『白線流し』に刻まれた姿
2022/02/09 17:00
なお、『白線流し』は連続ドラマが終わった後、園子や渉のその後を描いたスペシャルドラマが1997年〜2005年の間に5本作られている。定時制を卒業した渉は北海道にある天文台に就職したが、不況の煽りで天文台は閉鎖。その後は、園子と同棲するもホストとして働いていたことがバレて別れたり、青年海外協力隊として渡航したスリランカで知り合った同僚と事実上の結婚をしたりと、波乱万丈の人生を送ることになる。
20代になっても渉と園子は高校の時以上に迷いながら生きていた。高校時代の2人や、その同級生たちが好きだった視聴者にとって、スペシャルドラマはつらい展開が続くだろう。しかし、続けて見ていると『池袋』が放送された2000年以降、長瀬の芝居が変化しているのがわかって面白い。
園子役の酒井の素朴な表情もそうだが、『白線流し』は役者の芝居を見せるというよりは、10代の一瞬にしか出せない表情や動きを、まるでドキュメンタリーを撮るかのように追いかけてきた。それは大人になったスペシャルドラマも同様で、だからこそ一番印象に残っているのは物語ではなく、その時々で見せる役者の何気ない表情だった。
長瀬が演じる渉にそれは強く現れており、次第に渉から刺々しさが消え、どっしりとした優しさが備わっていく姿が何よりドラマチックだ。『池袋』を間に挟み、影のある刺々しい少年だった長瀬が、当たりの柔らかい大人の男へと少しずつ変わっていく姿が『白線流し』には刻まれている。
(成馬零一)
最終更新:2022/02/09 17:00