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ドラマ俳優クロニクル

長瀬智也、『池袋ウエストゲートパーク』以前の未完成な存在感――『白線流し』に刻まれた姿

2022/02/09 17:00
成馬零一
長瀬、一般人にしておくのはもったいない俳優よ……(C)サイゾーウーマン

――ドラマにはいつも時代と生きる“俳優”がいる。『キャラクタードラマの誕生』(河出書房新社)『テレビドラマクロニクル1990→2020』(PLANETS)などの著書で知られるドラマ評論家・成馬零一氏が、“俳優”にスポットを当てて90年代の名作ドラマをレビューする。

 2021年4月にジャニーズ事務所を退所し、芸能界を引退した元TOKIO・長瀬智也。彼が最後に出演した作品は、同年1月期放送の宮藤官九郎脚本ドラマ『俺の家の話』(TBS系)だった。

 俳優としての長瀬を考える時、宮藤との出会いは決定的なものだといえる。2000年に出演した宮藤脚本のドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(同、以下『池袋』)で演じた真島誠の「バカで不器用だが明るく優しい豪快な男」という人物像は、『俺の家の話』で演じた元プロレスラーで親の介護をしながら能楽師を目指す観山寿一まで続く、俳優・長瀬の共通するイメージだ。

 つまり、長瀬は『池袋』で俳優として覚醒したといえるだろう。だが、それ以前の長瀬に俳優として魅力がなかったかというと、そんなことはない。

 宮藤のドラマで見せる演技があまりに強烈で魅力的だったからこそ忘れがちだが、90年代の長瀬には現在とは違う、未完成ゆえの存在感があった。その魅力がもっとも際立っていたのは、1996年の連続ドラマ『白線流し』(フジテレビ系)で長瀬が演じた大河内渉だ。

 本作は、長野県松本市を舞台にした青春群像劇。タイトルの「白線流し」とは、卒業式の日に卒業生が学帽の白線とセーラー服のスカーフを一本に結んで川に流す行事のことで、劇中の高校生たちの絆を示すモチーフとして象徴的に用いられている。

 物語の中心にあるのは、受験を控えた七倉園子(酒井美紀)たち全日制高校に通う高校3年生の焦燥感。大学受験を目前にして将来について思い悩む園子の姿は今見ても生々しい。おそらく、地方の進学校に通っていた真面目な子ほど「これは自分の物語」だと感じていたのではないかと思う。

 一方、長瀬が演じる大河内渉は、昼間は工場で働き、夜は定時制に通う少年。同じ高校に通っていても全日制と定時制だったため、接点がない2人だったが、ふとした偶然で知り合い、少しずつ心が通じ合っていく。

 受験生の鬱屈と同時に描かれるのは、経済格差がもたらす分断だ。これは今見るほうが切実に迫ってくる。

 親が裕福で恵まれた立場にいる全日制の生徒と、働きながら定時制に通う生徒の立場の違いが劇中では強調される。不良が多くガラの悪い定時制の生徒たちは教師から煙たがられており、全日制の生徒から白い目で見られている。逆に定時制の生徒たちは、全日制の生徒を親の金で悠々と青春を謳歌する甘えた奴らだと見下している。

 そんな中、全日制に通う園子たちと定時制に通う渉がお互いの立場を超えて心を通わせていく姿が、本作の見どころだ。

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