芸能
[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

『エクストリーム・ジョブ』を韓国コメディ映画部門の歴代1位に押し上げた、韓国の国民食“チキン”

2022/01/14 19:00
崔盛旭(チェ・ソンウク)

<物語>
 昼夜を問わず犯人逮捕に東奔西走、孤軍奮闘するもこれといった成果は上げられず、ついに解体の危機にさらされる麻浦警察署の麻薬捜査班。最後のチャンスとして国際的な犯罪組織による麻薬密輸の捜査を命じられた面々は、リーダーのコ班長(リュ・スンリョン)と4人の部下、チャン刑事(イ・ハニ)、マ刑事(チン・ソンギュ)、ヨンホ(イ・ドンフィ)、ジェホン(コンミョン)で張り込みを開始。だが、アジトの向かいにある張り込みにぴったりだったトンダク屋の主人は、売り上げ不振のため閉店を宣言してしまう。

 班の解体のためにはもう後がないコ班長は、悩んだ末に退職金を前借りしてトンダク屋を買い取り、捜査とわからないよう偽装のトンダク屋を始める。トンダクの作り方すら知らない彼らだったが、絶対味覚を持っているというマ刑事が故郷のカルビの味付けを応用して腕を発揮、「おいしい」とたちまち話題となり、メディアにも取り上げられて店は連日大繁盛。いつしか張り込みは後回しとなり、一行は接客に振り回されることに。そんなある日、ついに犯罪組織から注文が入り、捜査班に一網打尽の絶好のチャンスが訪れる。だが、そこには巨大な陰謀が待ち受けていた……。

 「今までこんな味はなかった。これはカルビだろうかトンダクだろうか? はい、水原(スウォン)王カルビトンダクです」――捜査会議中だろうと、電話が鳴ればトンダク屋に早変わり、店主がすっかり板についたコ班長の口から淀みなく飛び出す宣伝フレーズだ。直訳のため映画の字幕とは少し異なるが、映画レビューサイトで「最も面白い名台詞」にも選ばれた。見終わった後もずっと耳に残り、思い出すたびに笑ってしまうという観客も少なくないらしい。

 警察の麻薬捜査班とトンダク屋という、関係性の薄いミスマッチな設定を行き来しながら、そのギャップから必然的に生み出される喜劇を最大限生かして絶え間ない笑いを誘う。これが芸人顔負けの俳優たちのコミカルな名演技と相まって大受けし、観客動員1,280万人以上、韓国コメディ映画部門の歴代興行ランキング1位、全体でも8位という驚異の大ヒットを記録した。そしてその背景に、今も昔も、小さい子どもからお年寄りまで、世代や時代を超えて愛されてきたトンダクの存在があることは、韓国人なら誰もが認めるところだろう。

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