『最愛』ラスト直前“考察”! 梨央が死ぬ暗示? 名前だけで読み解く梓としおりの物語
ここで名字の橘についても考えてみたいと思います。柑橘系の橘は古来「時軸」と呼ばれていました。その字のままで考えると、冥界と現世の往来説もまんざらでないような気がします。そして、橘しおりが物語の時間軸、物語の中心を貫いているのではないかとも思えてきます。
そうすると「15年前、台風の夜の死体遺棄共犯者」「康介の父・昭殺しの犯人」「しおり不審死」は全てしおりが関与しているというふうにも考えられるでしょう。「しおりの死にしおりが関与」は自殺を意味します。ただ、そうだとしても、冥界の住人ですからそれは悲しんだり憐れんだりするものではなく、しおりが望んで「本来の居場所」に戻ったとも解釈できそうです。
転落死現場の姿。左足があり得ない方向に折れ曲がっている無惨なアウトライン。そういったリアリズムに反して美しくもあったしおりの死に顔が、何かを示しているように見えてきます。
例えば、その最後の最期に最愛の人と会えていたとしたら、そして胸の内をしっかり伝えることができていたなら、しおりはその瞬間はむしろ幸せだったのではとさえ思えてくるのです。
『最愛』梨央が後藤専務の血を顔に塗ったわけ
最後に、一つ印象的なシーンがあったので触れておきます。第1話冒頭とつながる第9話終盤、梨央がパトカーに向かう時に髪をかき上げ、その際顔に血がついてしまったあの場面です。
「この血は誰のだ?」とこれまで数々の不穏な考察を呼ぶこととなりましたが、それがまさかの、組織内でむしろ敵対関係であり、不正に手を染めていた後藤専務(及川光博)の血だったわけです。
梨央はそんな彼の血がどっぷり手についても気にすることなく、それどころか顔に塗ったのに拭こうともしない、この描写には戦慄しました。まるで後藤と「血の掟」を交わしたかのよう。その様は歌舞伎の「赤の隈取」に見えてなりません。組織の正義を貫く覚悟の表れなのか、梨央が経営者として、赤い隈取が意味するところの「勇気」「正義」「強さ」を持った瞬間と見ることもできそうです。
梨央が梓から完全に世継ぎした瞬間。梨央の最愛が大ちゃんこと宮崎大輝(松下洸平)から母・梓=会社へとシフトしたことを表現したのかもしれません。