2021年、心に残る「食の本」をフードライター・白央篤司が選出! レシピ集やエッセイなど4冊
料理にある程度慣れて、いろいろ作ってみたい、もっと料理を覚えたいと思う人におすすめしたい一冊。
「塩加減」を知ることが、すなわち料理上手への道だと私は思っている。素材に対してどの程度の塩をして、どの程度調味上の塩気を加えたら、完成の際にちょうどよくなるのか……というのをいかにつかんでいくか。
計量するのではなく、自分なりの「ひとつまみ」を体で覚えていきましょう、というのが本著の狙いだと私は見た。最低限の塩分で、存分においしさを引き出す、演出する。そのための格好のドリルである。
著者の荻野恭子さんは世界65カ国以上を訪ねて現地の方々に料理を習い、研究を続けてきたベテランの料理研究家。書内でも各国の料理が紹介されている。
「料理は、子育てに少し似ていると思います。子育ては見守ることがいちばんたいせつで、へたに手を出しちゃいけない。料理も同じで、なにかを焼くときはあんまりさわらないほうがいい。じっと見守って。でも、じっと見てばかりもいられないから、目を離す勇気も必要」という言葉は至言だ。
マンガ:『しあわせは食べて寝て待て2』水凪トリ 著
今年の7月に紹介した作品の続巻。
病を抱え、フルタイムの仕事が難しくなった主人公・麦巻さとこ。転居して知り合った周囲の人々から良い刺激を受け、薬膳に興味をもっていく。第2巻では生きる強さを少しずつ取り戻し、年下の人間を気遣う大きさも見せる。
「(昼に食べた)カレー、少し重かったかな。夕飯はお粥にしとこか」
なんてセリフがサラッと入ってくるところに、この漫画の価値を思う。自分の体の声に耳を傾けられ、日々の食事のバランスを考えられる。これこそが養生の基本、人生で早いうちに身に着けたいスキルだ。
さとこはこの後お粥を作って、自分なりに良いと思う野菜をトッピングする。まずは無塩で味わい、次に塩気のあるおかずと共に楽しむ。彼女が大事にしたい「食の豊かさ」があざやかに描かれていた。
白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター。郷土料理やローカルフードを取材しつつ、 料理に苦手意識を持っている人やがんばりすぎる人に向けて、 より気軽に身近に楽しめるレシピや料理法を紹介。著書に『自炊力』『にっぽんのおにぎり』『ジャパめし』など。