2021年、心に残る「食の本」をフードライター・白央篤司が選出! レシピ集やエッセイなど4冊
時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター・白央篤司が選んでご紹介!
2021年、「心に残る食の本」4冊
さて師走に入り、2021年もじきにおしまい。今年も食関係の本が数多く出版された。コロナの影響でレシピ本を求めた人は昨年に続いて多かったよう。レシピ以外のものも含めて、心に残る食の本を今回は4冊ご紹介したい。
絵本:『えきべんとふうけい』マメイケダ著
絵本っていいなあ。そんな気持ちを久しぶりに思い出した。
おいしそうな表紙に惹かれて本を開けば、しょうゆさしが空を飛ぶ。駅弁を買うひとを見かけて「ぼくも のりたくなった」と始まる電車の旅。東京から島根あたりまで、楽しい旅が続いていく。
車窓いっぱいに広がる大河に海原、そして富士山。知らないまちの家並みをぼんやり眺めるのも、列車旅の好きな時間だ。何より見開きで描かれる弁当の数々がなんとも魅惑的で。駅弁を開けるときの期待やウキウキする気持ちがよみがえる。
著者のマメイケダさんは1992年生まれ、高校卒業後に総菜調理の仕事をされてから画業に進まれたとプロフィールにある。旅が好き、食べることが大好きだけど、やっぱりまだ遠出は控えたい……という方にもおすすめしたい一冊。
フォトエッセイ:『おいしいレシピができたから』藤井恵 著
あまたいる料理研究家の中でも、藤井恵さんはトップクラスの人気を誇るひとりだ。私は彼女の人気の理由をその「堅実さ」にあるとみている。地に足の着いた日本の家庭料理を軸とし、ごく普通の食材と調味料と道具で作れるレシピを常とされ、テクニック的にもある程度の料理経験があれば作れる「ほどよい範疇」をかたくなに守る。それでいて、どこか料理に華がある。
そんな藤井さんは料理研究家になって22年。「このへんで一度、ひと区切りしようかと」思われて、フォトエッセイを作られたようだ。こういう本は正直、「素敵なわたしの素敵ライフ」をごく浅く、軽く紹介して終わるものもなくはない。しかし藤井さんはそんなことはしなかった。
「数年前から、50代という年齢をどうとらえたらいいのか迷っていた」
いつまで、好きなことができるだろう。残りの人生、何がしたいのだろう。
「ここ13年、体のあちこちが順番にトラブルを起こしている」
老いを感じるが、それは誰にでも平等に来るもの。淡々と今すべきこと、したいことを考え、選択していくさまが飾り気のない筆致で描かれていく。
これまでの振り返りも実におもしろい。ネットであるとき「セレブ料理研究家」と書かれたのを見つけ、「セレブだってさ、笑っちゃう。私の極貧時代を知らないな?」とつぶやくように書く。そこからどうやって現在の「場所」を築いてきたのか。
仕事に没頭したいが子育てもある。夫婦間には「氷河期」もあったと。料理誌編集者とのやり取りで自分の仕事が磨かれていったくだりなども興味深い。ともかく率直に、ひたむきにつづられた自分史だった。