ベトナム戦争の虐殺被害者の証言と市民同士の連帯を映した、韓国ドキュメンタリー映画『記憶の戦争』
映画は主に、ベトナムの有名な観光都市・ダナンからそう遠くないフォンニィ村で68年2月12日に起こった虐殺事件を取り上げている。子どもや女性、老人を含め、確認されただけで74人が韓国軍によって殺された事件だ。韓国は64年9月~73年3月に延べ30万人以上の兵力をベトナムに送っているが、この期間に約80件の虐殺事件を起こしたと報道されており、被害者は最低でも約9,000人に達すると推定される。ウワサレベルでしか語られていないものや、証言はあっても裏付ける証拠のない事件も多いため、実態の把握は非常に難しく、正式に認められたのは80件のうち、敵兵と誤認して6人の民間人を射殺したというたった1件のみである。92年に韓国とベトナムが正式に外交関係を結んでからは、一つの虐殺も認められていない。
このような現状からは、韓国政府が真相究明にいかに消極的な姿勢を貫いてきたかがうかがえる。だがフォンニィ村の虐殺は、映画に登場する家族を殺された女性のタンさんや、視力を失ったラップさん、殺りくを目の当たりにした聴覚障害のあるコムさんらの証言だけでなく、当時の米軍の報告書の発見や虐殺に加担した韓国軍兵士の証言もあり、虐殺の事実はほとんど明らかだと言わざるを得ない。
市民団体の支援を得たタンさんは、勇気を出して2018年、韓国政府に虐殺を認めさせ、元参戦軍人たちからの謝罪を求めるため、虐殺の被害者として初めて韓国を訪れる。彼女は、00年に日本で開かれた日本軍「慰安婦」問題についての責任を追及する民衆法廷「女性国際戦犯法廷」をモデルにした、「ベトナム戦争時期の韓国軍による民間人虐殺真相究明のための市民平和法廷」で証言した。
裁判では虐殺を「重大な人権侵害で戦争犯罪である」と認め、「韓国政府に責任がある」と断定したが、元参戦勇士からの謝罪はなかった。それどころか彼らは、軍服姿で「市民法廷」に対する反対集会を開き、虐殺の否定と国家への貢献を声を荒げて主張したのである。彼らにとって、虐殺を認めることはすなわち、全人生を否定されることでもあるのだろう。そんなゆがんだ歴史認識に基づく集団的ヒステリーの様相を映画は捉えている。