芸能
[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

ベトナム戦争の虐殺被害者の証言と市民同士の連帯を映した、韓国ドキュメンタリー映画『記憶の戦争』

2021/11/19 19:00
崔盛旭(チェ・ソンウク)

(C)2018 Whale Film

 だが今では、韓国の参戦は、クーデターで政権を掌握した朴正煕がアメリカのご機嫌取りのために自ら手を挙げたものであり、「正義の戦争」うんぬんなどではなく「ドル稼ぎ」が真の目的だったということが明らかになっている(以前のコラム『国際市場で逢いましょう』を参照)。とりわけ、89年に出版された安正孝(アン・ジョンヒョ)の長編小説『ホワイト・バッジ』(日本での翻訳出版は93年)は、ベトナム戦争に参戦した理由や韓国軍の実情を告発し、米・韓で大きな反響を巻き起こした。作家自身の参戦経験を基にしたこの小説は、92年にはチョン・ジヨン監督によって映画化もされ、ベトナム戦争をめぐる真相を韓国社会に知らせるきっかけとなった。

 にもかかわらず、依然として「正当な参戦」という認識が根強いのは、30年続いた軍事独裁政権下での美化と隠蔽がもたらした負の産物としか言いようがない。そんな中、1本のドキュメンタリー映画がベトナム戦争での韓国軍による民間人虐殺を改めて追及して注目を集めた。日本でも現在公開中の『記憶の戦争』(イギル・ボラ監督、2018)である。「改めて追及」したというのは、1999年に週刊誌「ハンギョレ21」が初めて韓国軍による虐殺問題を報道してから現在に至るまで、真相究明や被害者への補償などを求める運動は絶えることなく続いてきたからだ。

 「미안해요 베트남(ごめんなさいベトナム)」のキャッチフレーズに代表されるこの運動は、さまざまな市民団体を中心に、虐殺の現地調査や支援のための募金、慰霊塔の建立、被害者との交流など多岐にわたる。ただ、これらの活動はすべて民間レベルで行われており、成果は残しているものの、それが社会全体に広く知られているとは言い難く、国家レベルでの公論に至っていないのが事実だ。

 主にメディアの無関心に起因するこのような事態に対して、監督をはじめ製作スタッフ全員が女性であり、女性のまなざしでベトナム戦争を見つめた本作は、虐殺問題や市民団体の活動、そして参戦軍人団体の妨害工作を社会に改めて喚起・再認識させた点で大きな意義を持つといえるだろう。今回のコラムでは、映画の内容に沿いながら、日本ではあまり知られていないであろうベトナム戦争と韓国の関係について紹介したい。

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