中学受験、心配症の母親が塾でブッ倒れ……この季節の“あるある話”に塾の対応は?
ちょうど、その日はテスト結果が返ってきた日だったそうで、その結果を知っていただけに啓代さんの頭の中は「もうダメだ。あれもできてない、これもできてない!」という思いでいっぱいになり、一気に血の気が引いたような状態に陥ったという。
また、間が悪いというのか、最後のクラス分けで下位クラスにいた子が大輔くんよりも上のクラスにジャンプアップしたことを耳にしていたというタイミングであったため、啓代さんはますます焦るようになり、「あの子に負けるようじゃ、もう受かるわけがない」という思いに苛まれて、勝手に苦しんでいたらしいのだ。
しかし、人間、塞翁が馬ということがあるのかもしれない。
「でもね、あの時、倒れてよかったです。その後、室長と面談することになって、塾の先生に初めて思いを打ち明けられたんです。受験が心配で心配で、たまらないって……」
多くの塾の先生たちにとっては、この時期に不安定になる母親のことは想定内。「あ、例の症状ですね!? 今年もその季節になりましたか!」くらいの感覚で、大抵は「お任せください」である。
大輔くんの塾の室長は啓代さんにこう言ったという。
「大輔は大丈夫ですよ、お母さん。確かに夏明けからは成績が今までのような上り調子ではないですが、彼はそれでも腐らずに淡々と勉強を続けています。こういう子は大丈夫なんです」
啓代さんは、その言葉を聞いて、ちょっと安心したそうだが、室長は彼女にこう言い渡したそうだ。
「問題はお母さん、あなたのほうです。母親の不安はダイレクトに子どもに伝わってしまう。いくら心配だからといって、迎えに来ただけで倒れるのは大輔の足を引っ張るだけです。どうです? 大輔は毎日塾で預かりますから、過去問も塾がない曜日に空き教室でやらせましょう。お迎えも極力、お控えください。今までも、駅までは職員が引率していますから、ご安心を。お母さん、あなたの仕事は笑顔でいることです」
啓代さんには痛烈な言葉となったのではあるが、きっと根が素直な人なのだろう。
「承知しました。私は私の仕事を頑張ります」と先生に誓ったという。
もともと、大輔くんは塾が大好きという子どもだったためか、この作戦は功を奏し、彼は見事に第一志望校に合格したという。
塾の先生たちと「母と中学受験」の話をしていると「お母さんの不安を子どもに伝染させないようにするのも我々の仕事のひとつ」と言われることが多い。
心配は母なればこそではあるが、受験時は特に「肝っ玉母ちゃん」でいる方が子どもにとっては心強い受験になるように感じている。