85歳でも運転免許を返納しない母、娘の説得に「恩知らず」と逆上! 父は「ママは運転がうまい」と甘やかすが……
“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)
そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。
「母のおもらしが増え、家中が臭くなり、怒鳴る父……変わってしまった実家に娘の複雑な思い」や、「『わが母ながら立派』と思っていたが……同居する弟夫婦は『他人以下』、父の介護に一人で取り組む心情は聞くに聞けない」でも紹介したように、「高齢の親に運転をやめさせたい」と頭を悩ませている子どもは少なくない。
宮下いづみさん(60)もその一人だ。85歳の母親涼子さん(仮名)が運転をやめてくれないことを新聞に投稿したところ、後日特集が組まれるほど大きな反響があった。親の運転問題で悩んでいる子どもがいかに多いかがわかる。
私は20代の若者より運転がうまい
宮下さんの両親、明さん(仮名・92)、涼子さんは隣県で二人暮らしをしている。ともに大学を卒業後アメリカに留学した経歴を持つ超高学歴の夫婦だ。だが、こと運転に関しては対照的な考え方を持っている。
「父は70代半ばで自主的に免許を返納しました。母は留学していた22歳の頃に運転をはじめ、以来63年運転し続けています。母には、高齢になったから運転をやめないといけないという自覚はまったくありません。昨年までは高速道路を利用して別荘に通っていたほどです」
涼子さんは「20代の若者よりも運転がうまい」と並々ならぬ自信を持っているが、そう考えているのは涼子さんだけのようだ。宮下さんは涼子さんの運転技術が明らかに衰えていると感じている。
「交差点で右折するときに、対向車が来ていないのにタイミングを逃して、信号が赤に変わる瞬間に右折する。バックでスムーズに駐車ができない。母の運転を見ていると怖くなることがたびたびあるんです」
宮下さんは涼子さんの運転に不安を抱き、しばしば涼子さんの車に同乗しているという。そのときだけでも数々の危険な兆候があるのだから、宮下さんが同乗していないときにどんな運転をしているか考えると恐ろしくなると嘆く。
昨年別荘を処分したため、涼子さんが高速道路を運転する機会はなくなったとはいえ、街なかを運転する機会はまったく減っていないのだ。
「父を病院に連れて行く、弟が飼っている犬を預かるため毎週末弟の家まで行く、買い物に行く、お友達に頼まれて車を出す……と母は車を運転しなければならない理由をいくらでも挙げるんです。でも父の病院へはタクシーで行けばいいし、犬は弟に連れて来てもらえばいい。両親のマンションは、スーパーも病院も徒歩圏内にあります。住み替えるときに、生活するのに便利な駅近の場所を私が探したんです。それなのにわざわざ車で遠くのスーパーや病院に行く。マンションから近い病院は『あそこはヤブだから』と言うのも、いかにも母らしい言いぐさです」
宮下さんが涼子さんの代わりに運転すると言っても、「あなたの世話にはならない」「あなたは運転がヘタ」と断固拒否するというのだ。