老いゆく親と、どう向き合う?

「父ちゃんが浮気してる」「女の人が来てる」幻覚に苦しむ認知症の母に、“写真”に撮って確認させた

2021/08/01 18:00
坂口鈴香(ライター)
写真ACより

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)

 そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。

 井波千明さん(仮名・56)の母親は夫の死後、夫が浮気しているという幻覚に苦しめられた。パーキンソン病と肺高血圧症が悪化した母親は、井波さんと同じマンションの上階で暮らし、寂しい思いをする母親のために、父親は実家とこのマンションを行き来していた。そしてマンションに滞在中、父親は急変し、意識が戻らないまま亡くなった。

▼前回▼

母の幻覚を写真に撮らせた

 一人になった母親は、有料老人ホームに入居した。


「マンションの上の階に暮らしていた母は、ヘルパーさんや訪問看護師さんに手伝ってもらい、夜は私が一緒に過ごしていましたが、私がいない間に転んで骨折したりしていたので、マンションでは母の安全が確保できないと思ったんです。だけど正直なところ、私のやる気もなくなっていたんだと思います。ホームに入ってもらってからは、私はただ会いに行くだけで、身体的な負担はなくなりました」

 母親が、夫が浮気をしているという思いに苦しめられたのもこのころだ。母親のホームに行くたびに、母親は「あそこに父ちゃんがいるから連れて行け」と井波さんに命じた。

「『そんなところに父ちゃんはいない』と言っても、『私の言うことは何も聞いてくれない』と怒るんです」

 井波さんも、うまく母親の話に付き合えばよいということはわかっていても、どうしてもそれができず、毎日大ゲンカになった。

「母が『ほら、そこに大勢の女の人が来ている』と言い張るから、『じゃあ携帯で写真を撮ってみてよ』と言って、母に写真を撮らせたことがあります。そしてその写真に誰も写っていないことを確認させました。母はものすごく不思議そうに、ずっと携帯を見つめていました」


 母親の幻覚は、薬の副作用に加えて認知症もあったのではないかと井波さんは考えている。母親は頭が冴えている日もあって、夫の浮気が幻覚であることがわかっているときもあったという。

「二人で父のことを話しているときに、『父ちゃんが浮気してるのも、私が寂しがらないように、わざとそう思わせているのかなって思うときもあるよ』と言ったんです。脳って不思議な世界ですね……」

母を看取るすべての娘へ—在宅介護の700日 森津 純子 B:良好 F0660B