話題のエッセー『常識のない喫茶店』と、『スカートのアンソロジー』に通底するハラスメントにNOを突き付けるための姿勢
ここはサイゾーウーマン編集部の一角。ライター・保田と編集部員A子が、ブックレビューで取り上げる本について雑談中。いま気になるタイトルは……?
◎ブックライター・保田 アラサーのライター。書評「サイジョの本棚」担当 で、一度本屋に入ったら数時間は出てこない。海外文学からマンガまで読む雑食派。とはいっても、「女性の生き方」にまつわる本がどうしても気になるお年頃。趣味(アイドルオタク)にも本気。
◎編集部・A子 2人の子どもを持つアラフォー。出産前は本屋に足しげく通っていたのに、いまは食洗器・ロボット掃除機・電気圧力鍋を使っても本屋に行く暇がない。気になる本をネットでポチるだけの日々。読書時間が区切りやすい、短編集ばかりに手を出してしまっているのが悩み。
エッセーという気軽に読める形式ながらも芯が通った作品
保田 少し前の話になるんですが、8月に純烈・酒井一圭が『百獣戦隊ガオレンジャー』関連イベントで、女性の役である「ガオホワイト」のお尻を触り共演者にたしなめられて笑いが起きた動画をTwitterに投稿した件ってご存じですか?
A子 サイゾーウーマンでも記事になりました。ツイートには「ガオホワイトの尻」というハッシュタグが付けられるなど、おそらく「ジョークだから問題ない」と判断した投稿だったと思われますが、「セクハラは笑って消費できるもの」という認識自体が問題なんですよね。いつの間にか投稿は削除されていますが……。
保田 ガオホワイトの演者の心中はわかりませんが、仕事上、明らかに「嫌だ」と言いにくい環境でのセクハラを経験している人も多いなか、いまだに「笑えるネタ」として扱われることにあきれたり、トラウマを呼び起こされた人も大勢いるんじゃないでしょうか。そんな人に読んでほしい本が『常識のない喫茶店』(僕のマリ・著、柏書房)です。
A子 ウェブで連載されていた時から、「失礼なお客さんとはケンカしてもいい」「スタッフの判断で、客を出禁にしてもいい」という喫茶店のルールが話題になっていた作品ですね。
保田 著者が勤めているのは「働いている人が嫌な気持ちになる人はお客様ではない」という理念を持つ喫茶店。基本的には個性の強い店長や同僚、同じくらいアクの強い客の観察記であり、著者の濃い“喫茶店愛”が味わえるエッセーです。でも、店員をしつこく誘う男性などセクハラや非常識な行為をやめない客にはその場で「もう来ないでください」と言える環境、出禁にクレームを入れられても守ってくれる店長……率直に「うらやましいな」と思ってしまいました。
A子 9月下旬には、元「バイトAKB」のラーメン店経営者・梅澤愛優香さんが、セクハラ被害などを理由にラーメン評論家の“出禁”を表明したところ、その出禁対象者とおぼしき男性がブログでセクハラをほぼ認めたうえで「梅澤さんの件は、まだまだ良い方ですよ」とちゃかした件もありました(後に当該文言は削除)。嫌がらせを受けても、若い女性は特に、周囲がその深刻度を理解しようとしないケースがあるんですよね。
保田 もともと大企業に勤め、セクハラや理不尽なクレーム対応が重なって心身のバランスを崩した著者の過去もつづられていて、「『違う』と思うことに自分を曲げ続けていると、気づかないうちに尊厳を失う」「自分を殺しながら働くことが社会ならば、そんなところで息をしていたくない」という言葉が説得力を持って響きました。エッセーという気軽に読める形式ながらも芯が通った作品ですので、なにか社会の不条理にモヤモヤしている人に。
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