芸能
[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』
韓国映画『アシュラ』、公開から5年で突如話題に!? 物語とそっくりの疑惑が浮上した、韓国政治のいま
2021/10/08 19:00
事件の展開が生中継された点や、立てこもった犯人が世の中への痛切な思いを叫ぶといった点から、68年に日本で起こった「金嬉老事件」を想起する人も多いかもしれない。また事件が社会に与えたインパクトは、72年の「連合赤軍事件」に匹敵するものがあるだろう。だがそれ以上に、この事件が現在でも重要な意味を持つのは、チ・ガンホンの壮絶な叫びであった。
それは、「無銭有罪、有銭無罪」という、権力とカネによって牛耳られた韓国社会に対する心の底からの批判だった。チ・ガンホンは500万ウォン(約50万円)あまりを窃盗した容疑で懲役・保護監護17年の実刑判決を言い渡されていた(ほかの脱走犯も、おおむね似たような罪だった)。だがちょうどその頃、70億ウォン(約7億円)以上の横領と4億ウォン(約4000万円)以上の利権介入の罪で逮捕されたチョン・ギョンファンという人物に対しては、金額の大きさにもかかわらず、懲役7年という短い判決が下された。
そのことを知ったチ・ガンホンは「無銭有罪、有銭無罪」と叫び、貧しい人間ばかりが罪を着せられ、カネを持った人間は悪事を働いても罪にならない現実を突きつけたのだ。これこそまさに政経癒着という韓国の暗部を言い当てた言葉であり、多くの人々は「彼のやったことは犯罪だが、彼が言ったことは正しい」と、今でも格言のように人口に膾炙している。