芸能
[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』

韓国映画『アシュラ』、公開から5年で突如話題に!? 物語とそっくりの疑惑が浮上した、韓国政治のいま

2021/10/08 19:00
崔盛旭(チェ・ソンウク)

 本作の「逆走行」の要因となったのは、与党側の次期大統領最有力候補とされる、現・京畿道(キョンギド)知事のイ・ジェミョンに対して、野党側から映画そっくりの疑惑を告発されたことに始まる。つまり、映画に登場するファン・ジョンミン演じる悪徳市長の、政治的権力維持と経済的利権のためなら殺人も辞さないやり方が、京畿道・城南市長時代のイ・ジェミョンをモデルにしたのではないかと野党側が指摘したため、本作が一気に国民の関心を引いたのだ。

 野党が指摘した、イ・ジェミョンの実際の疑惑とは、次のようなものである。

 イ・ジェミョンが市長を務めていた2015年、城南市の都市開発のために建設施工会社が設立された。市と多数の民間企業がこれに投資したが、株の半分以上を市が保有していたため、実質的に経営権は市側が握っていた。ところが、開発に伴う利益の多くが、持ち株の少ない特定の民間企業ファチョンデユ社に流れていたことが発覚し、その企業の背後に、イ・ジェミョン市長(当時)がいたのではないかというのである。疑惑に対し、イ・ジェミョンはもちろん全面否定。「市が開発を主導することで、自分はむしろ利益のすべてが民間企業に持っていかれるのを阻止したのだ」「市が得た利益は市民のために使われた」と真逆の主張を展開した。

 だが、面白いのはここからである。こうして疑惑をめぐり与野党の対立が激化し、『アシュラ』の逆走行が起こる中、つい先日、事態は驚きの展開を迎えた。ファチョンデユ社に6年間勤務したのち退職した30代の男性社員が、50億ウォン(約5億円)という巨額の退職金を得ていたことが発覚したのだが、その男性社員はなんと、イ・ジェミョンを告発した野党の国会議員クァク・サンドの息子だったのだ。野党にとっては、超特大のブーメランとなったわけである。

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