自社の不正を暴く“高卒女子”の活躍を描いた韓国映画『サムジンカンパニー1995』、より深く理解する4つのポイント
日本でも有機水銀の流出による「水俣病」やカドミウムによる「イタイイタイ病」などの公害が知られているが、韓国では91年、韓国屈指の財閥のひとつ、斗山(ドゥサン)グループの子会社、斗山電子が有害物質である「フェノール」をこっそり川に排出し、近くの大邱(テグ)水域の水道水貯水タンクに流入、水道水からの悪臭に気づいた市民によって事件が発覚した。
斗山電子は当初、フェノールの数値を改ざんし、専門家まで動員して無害を主張したが、市民団体の調査によってがんの誘発や、最悪の場合は死に至るほどのおびただしい量のフェノールが含まれていることが判明したのである。改ざんに加担した職員らは逮捕され、斗山グループの会長は被害者への補償はもちろん、再発防止のための設備強化を約束して辞任、この事件をきっかけに環境犯罪厳罰化の特別法が成立して、全国の水源を持つ主要な河川を監視する環境管理委員会も組織された。
映画では舞台となる95年の出来事になっているが、実際には91年に起こった事件であり、また映画ではジャヨンら社員の闘いに置き換えられているが、実際には市民や市民団体が結束して政府や大企業に立ち向かったという違いはある。しかし、数値の改ざんや会社側の隠蔽工作などの描写も含めて、確かに実際の出来事に基づいて描かれている。
だがこの事件はそれ以上に、目先の結果だけを追求していればよかった軍事政権時代の「開発独裁」はもう通用しないと、政府、企業、そして国民も気づき始めたこと、そして市民が自分たちで暮らしを守るために個人の連帯が重要であると証明した点において、大きな意味を持っていた。だからこそ多少年代が違えども、この映画にとって不可欠な要素として取り入れたのだろう。
『サムジンカンパニー1995』90年代を象徴する重要なモチーフとは?
フェノール排出事件に続き、後半の核としてモチーフになる会社の買収・合併についても一言付け加えておきたい。本作で描かれるのは、買収の標的にした会社の株を大量に取得し、支配権を握って牛耳ろうという、いわば外国資本による「敵対的M&A」だが、歴史的には韓国で外国資本によるM&Aが認められたのは、97年からであった。
つまり、本作の舞台となっている95年時点では外国資本によるM&Aはまだ認められていないため、現実的に考えると、劇中の「社長」の企みは成立し得ないことになる。だが、フェノール排出事件とともに、90年代を象徴する社会的変化として映画の重要なモチーフ的に付け加えられたであろうことを認識しておきたい。