万引きしたのは“鳩の餌”……! 全財産を持ち歩く哀しき老女に、店長が「おい、ババア!」と顔色を急変させたワケ
「おいおい、謝りもしないで、勝手に入れるなよ。もう警察呼ぶから、そこでおとなしくしてな」
蒸しパンケーキをテーブルに戻させ、きちんと謝罪したほうがいいと進言してみるも、ごめんごめんと口先だけで謝るばかりで話になりません。どうやら店長に怒鳴られたことが気に入らず、無視することに決めたようです。気まずい雰囲気が重苦しく、警察官が到着するまでの間、世間話をして場をつなぎます。
「鳩が、好きなんですか?」
「うん。幼稚園をやっていた頃に、大きな鳩小屋を作って、たくさん飼っていたのよ。だから懐かしくてね」
「幼稚園をやっていた?」
「そう。わたし、夫がやっていた私立幼稚園のあとを継いで園長をしていたの。バカだから騙されて、全部取られちゃったけど」
話を聞けば、不動産取引に係る詐欺被害に遭ったそうで、そこから団地で一人住まいを始めたとのことでした。同性で年が近いからか、私の問いかけには余計なことも含めて答えてくれるので、気になっていることを質問してみます。
「お荷物たくさんあって大変ですね。お仕事か何かで使うものなんですか?」
「ううん、違うわよ。これは、私の全財産」
「全財産? 持ち歩いていたら大変じゃないですか? おウチには置いとけないんですか?」
「騙されてから、他人が信用できなくなってね。家に置いておくと不安で、いつもこうしているのよ」
全財産といっても、荷物の状況から察するに衣類がほとんどで、私の感覚からすれば盗まれるようなものではありません。詐欺被害の話が事実なのかはわかりませんが、どこか壊れてしまっているような老女の現況を見れば、なにか大きなことがあったことに違いなさそうです。
到着した男女の警察官が犯行状況を確認して、老女の犯歴照会をかけた結果、さしたる前科はなかったようで微罪処分で済ませる流れになりました。蒸しパンケーキの代金を精算してもらい、老女を警察官に引き渡すと、嫌味たっぷりな感じで店長が声をかけます。
「もう二度と来るなよ。鳩の餌やりも、絶対ダメだからな」
返事をすることなく、少し悲しげな微笑を浮かべた老女は、パトカーのトランクに全財産を積まれて警察署に連行されていきました。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)