万引きしたのは“鳩の餌”……! 全財産を持ち歩く哀しき老女に、店長が「おい、ババア!」と顔色を急変させたワケ
自然と耳に入るお客さんたちの会話から察するに、近隣のライバル店で朝市を開催しているようで、夕方に向けて客足が伸びる雰囲気です。そのため早めに昼食をいただき、後半の勤務を開始してまもなく、どことなく和泉雅子さんに似た感じのする70代と思しきふくよかな女性が目に止まりました。カートの上下段に設置したカゴの中に、大きめのバッグを2つずつ載せて店内に入ってきたのです。
店内に多くの荷物を持ち込む人は、それだけ隠し場所が増える上、ホームレスの可能性も考えられます。気になって行動を注視すると、菓子パン売場に直行した老女は、蒸しパンケーキを2つ手にして、カートの上段に置いたバッグの狭間に挟み込むように置きました。
さらに続けて2つの蒸しパンケーキを手に取り、今度は下段にあるバッグの狭間に挟み込んでいます。わざわざ上下段に分けて商品を隠すように置く意味がわからず、不審に思いながら老女の行動を見守ると、そのまま店の外に出て行ってしまいました。入店から退店するまで、およそ90秒。ただ盗みにきた人の犯行は、いつも素早く、手際の良いものなのです。
「ちょっと待って。お店の者ですけど、パンケーキの代金、お支払いいただけますか」
「え? ああ、そうよね。ごめんなさい」
店の外に出たところで呼び止めると、さほど悪びれた様子も見せず素直に認めてくれたので、そのまま事務所に連行して処理を進めます。早速に、未精算のものをテーブルに並べてもらい、続けて身分を証明するものがあるか尋ねると、後期高齢者用の医療保険証を提示されました。それによると、この店の近くにある団地に住む老女は、79歳。聞けば、一人暮らしをしているそうで、迎えに来てくれるような人は思いあたらないと話しています。事務員に店長を呼び出してもらい被害を特定すると、計4点、合計で400円ほどになりました。所持金を聞けば、6,000円ほど所持しているので、食うに困っての犯行ではなさそうです。
「お金あるのに、どうして払わなかったの?」
「いや、外にいる鳩が可愛くてね」
「え? 鳩が、どうしたって?」
「うん。おなか空いてそうで、かわいそうだったから」
蒸しパンケーキを盗んだのは、店の前に集まる鳩に給餌するためだと、悪びれる様子なくニヤニヤと話す老女に、急に顔色を変えた店長が怒気を強めて言います。
「もしかして、いつも鳩に餌やっているの、あんたなのか?」
「うん。毎日とはいかないけどね。2~3日に1回は、やっているかな」
「あんたみたいに餌をまく人がいるから、餌付けされた鳩が、たくさん集まってきて困っているんだよ。フンの掃除、毎朝おれがしているんだぜ。盗まれたパンを餌にされた揚げ句、フンの掃除までさせられてよ。おい、ババア! ちゃんと聞いているのか?」
低い声で凄まれても動ぜず、それを無視するかのように財布から500円玉を取り出した老女は、それをテーブルに置くと居並ぶ蒸しパンケーキをバッグにねじ込みはじめました。