万引きしたのは“鳩の餌”……! 全財産を持ち歩く哀しき老女に、店長が「おい、ババア!」と顔色を急変させたワケ
こんにちは、保安員の澄江です。
ここのところ新規のスポット契約が増え、見知らぬ土地の新しい現場に入る機会が増えてきました。どの店も、被害の増加を実感されているようで、一人でも多く捕まえてほしいと口を揃えます。お客さん全員がマスクをつけて、大きなバッグを持ってくるだけでも怪しく感じてしまうのに、ソーシャルディスタンスを意識しているのか他人を避けるように周囲を気にしながら歩くので、みんなが不審者に見えてしまうのだと話す店長もいました。お客さんを疑いたくない。その気持ちを維持するには、万引き者を捕捉するほかなく、保安員の導入を決めたそうです。今回は、つい先日捕らえた不思議なおばあちゃんについて、お話したいと思います。
当日の現場は、関東の一部地域を中心に店舗展開するスーパーマーケットT。初めて行く現場なので早目に出向いて、挨拶する前に店内把握(店内の構造や状況を把握すること)を済ませると、ワンフロアながらも広大な売場は死角だらけで、どこで何を隠されてもおかしくない状況にありました。開店まもないために使用を限定しているのか、稼働していないものの、真新しいセルフレジも導入されています。
恐れずに言ってしまえば、犯罪機会を刺激する店づくりをされているような状況で、こうなると万引きされないわけがありません。長年の経験から、お店の構造やレイアウトをみれば、どれほどの常習者が潜在しているか予想がつくのです。
(久しぶりの新店だから、間違いのないようにしないと)
少し緊張しながら事務所まで挨拶に出向くと、どことなく鬼越トマホークの金ちゃんに似ている体の大きな強面の店長が、優しそうな笑顔で応対してくださいました。
「緊急事態宣言されてから、まとめ買いするお客さんが多くてさ。どさくさに紛れてカゴヌケされている気がするんだよね」
「どの店も同じでございますよ。セルフレジは、大丈夫そうですか?」
「一度開けてみたんだけど不正が多くてさ。恐くて使えないんだ。ただでさえマスクとかエコバッグに振り回されているのに、セルフレジまで気にしていられないよ」
「そうですよね。ちょっと前の話なんですけど……」
ここのところ人と話すことが少なく、常にどこか不安な気分でいたので、ちょっとした日常を取り戻せたことがうれしく、ついつい余計におしゃべりした次第です。
捕捉があった時の連行場所を確認させてもらい、心地よい緊張感を持ちながら現場に出ると、思いのほか客足が悪く暇な時間を過ごすことになりました。