「母が苦手」という思いは消えていない――「出来そこない」と言われ続け、50代になってもなお苦しむ“母の呪縛”
若宮さんの弟や妹も、何もしないわけではない。コロナまでは、妹が時折ミヨ子さんの様子を見に来てくれていたし、弟はミヨ子さんの病院受診に付き添ってくれている。とはいえ、若宮さんのやっていることに比べれば全然足りないのだけれども。
「それでも、母はやはり息子がかわいいのでしょう。長男が一番自分のことをわかっていてくれていて、一番よくやってくれていると、まわりに自慢気に話しています。時々、弟に『私の家をあげるから、お母さんの面倒をみてよ』と愚痴っています。弟も母の性格がわかっているので『申し訳ないがお願いします』と愚痴を聞いてくれる。母にわかってもらえるとは思っていないし、車いすの年寄りに怒っても仕方ないと思うのですが、なかなか母とはうまくいきません。これも、若いとき家に寄り付かず、遊び回っていた報いだろうと思っています」
介護って、身近な人が一番わかってもらえないと思う。そういえば、昔若宮さんの祖母も同じことをしていた。
「祖母も、同居する長男の嫁に同じような仕打ちをしていたんです。母は祖母がお嫁さんの悪口を言うたびに、『そんなことを言うもんじゃない。お嫁さんが一番よくやってくれているでしょ』とお嫁さんの味方をしていたんですが、今や祖母と同じように、一番近くにいる私を敵対視している。母も祖母と同じことをしているんです」
今は、ヘルパーさんやケアマネという外部の目があるのがいいところだ。そうしたプロが若宮さんのことを理解してくれていて、「娘さんがいてくれて安心だね」と言ってくれる。若宮さんにはありがたいことだが、ミヨ子さんは「知らんふりしている」と笑う。
それでもここで投げ出したら後悔するのはわかっているので、できる限り家で見たいと思っている。
「結局、私も母に似ているんだと思います。年を取って、息子に嫌われないようにしないといけませんね」
祐樹さんのゲーム依存からDV、そして確執のあるミヨ子さんの介護まで、人生何回分だろうというほどの波乱万丈な話に、何度も息をのんだ。人生って、夫だけ、子どもだけ、親だけ、とどれかひとつだけを切り取ることはできない。全部つながっているのだなと改めて感じた。
「これから3日連続夜勤なんです」と明るく笑って別れた若宮さん、くれぐれも体には気をつけてほしいと思う。