カルチャー
居住支援の現場から【6】

「母が苦手」という思いは消えていない――「出来そこない」と言われ続け、50代になってもなお苦しむ“母の呪縛”

2021/06/20 18:00
坂口鈴香(ライター)

 若宮さんの弟や妹も、何もしないわけではない。コロナまでは、妹が時折ミヨ子さんの様子を見に来てくれていたし、弟はミヨ子さんの病院受診に付き添ってくれている。とはいえ、若宮さんのやっていることに比べれば全然足りないのだけれども。

「それでも、母はやはり息子がかわいいのでしょう。長男が一番自分のことをわかっていてくれていて、一番よくやってくれていると、まわりに自慢気に話しています。時々、弟に『私の家をあげるから、お母さんの面倒をみてよ』と愚痴っています。弟も母の性格がわかっているので『申し訳ないがお願いします』と愚痴を聞いてくれる。母にわかってもらえるとは思っていないし、車いすの年寄りに怒っても仕方ないと思うのですが、なかなか母とはうまくいきません。これも、若いとき家に寄り付かず、遊び回っていた報いだろうと思っています」

 介護って、身近な人が一番わかってもらえないと思う。そういえば、昔若宮さんの祖母も同じことをしていた。

「祖母も、同居する長男の嫁に同じような仕打ちをしていたんです。母は祖母がお嫁さんの悪口を言うたびに、『そんなことを言うもんじゃない。お嫁さんが一番よくやってくれているでしょ』とお嫁さんの味方をしていたんですが、今や祖母と同じように、一番近くにいる私を敵対視している。母も祖母と同じことをしているんです」

 今は、ヘルパーさんやケアマネという外部の目があるのがいいところだ。そうしたプロが若宮さんのことを理解してくれていて、「娘さんがいてくれて安心だね」と言ってくれる。若宮さんにはありがたいことだが、ミヨ子さんは「知らんふりしている」と笑う。

 それでもここで投げ出したら後悔するのはわかっているので、できる限り家で見たいと思っている。

「結局、私も母に似ているんだと思います。年を取って、息子に嫌われないようにしないといけませんね」

 祐樹さんのゲーム依存からDV、そして確執のあるミヨ子さんの介護まで、人生何回分だろうというほどの波乱万丈な話に、何度も息をのんだ。人生って、夫だけ、子どもだけ、親だけ、とどれかひとつだけを切り取ることはできない。全部つながっているのだなと改めて感じた。

 「これから3日連続夜勤なんです」と明るく笑って別れた若宮さん、くれぐれも体には気をつけてほしいと思う。

坂口鈴香(ライター)

終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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最終更新:2021/06/20 18:02
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