変装万引きGメンVS常習妻! 「あんた、なにやってんのよ!」捕まった女が取った驚がく行動とは?
ようやくに顔を上げて、涙ながらに懇願する女に構うことなく、店長は受話器を上げて通報を始めました。居ても立っても居られないといった様子で立ち上がった女は、店長の周りをウロウロして、話しかけるタイミングを窺っているようです。
「万引きです……」
電話口に向かって店長が話し始めた瞬間、その周りを落ち着きなく歩き回っていた女が、事務所の窓に向かって突然に走り始めました。
「危ない!」
あろうことか、そのまま窓を飛び越えて転落したので、あわてて外の状況を確認します。すると、地面に横たわり、痛そうに腰を押さえる彼女の姿がありました。どうやらお尻から落ちたようで、うまく起き上がれないようです。ひどく狼狽しながら電話口の警察官に事情を説明する店長に、救急車も呼ぶようお願いしてから、全速力で彼女の許に駆け付けました。
「あんた、なにやってんのよ! あんな高いところから飛び降りたら、死んじゃうわよ!」
どうやら相当のダメージを負ったらしい女は、声をかけても応じることなく、強く目を閉じたまま呻いています。すると通報を終えたらしい店長が、3階の窓から顔を出して、彼女の状況を尋ねてきました。
「命は、大丈夫そう?」
「はい、いまのところ」
気がつけば、周囲は10人前後の野次馬に囲まれており、好き勝手にさまざまな臆測を口にしています。近所に住む方なので、なるべく顔を見られないよう女のそばにしゃがんで、励ましの言葉をかけつつ救急車の到着を待ちました。
「あの人、腰椎を骨折していて、しばらくは歩けないって」
女が病院に搬送された後、店長と一緒に、女に対する加害行為がないことを証明するための実況見分をしていると担当刑事が言いました。
「あの人の旦那さん、すごく厳しい人らしくてさ。万引きしたことを知られるくらいならって、衝動的に飛び降りちゃったみたい」
「逃げるつもりじゃなく、死ぬつもりだったんですか? そんなに旦那さんが恐いなら、万引きなんてしなきゃいいのに」
「そういうストレスが原因なのかもしれないねえ。いずれにせよ、死なれなくてよかった」「ええ、本当に」
これを最後に、彼女の姿を見かけることはなくなり、その消息は知れません。無事に歩けるようになって、旦那さんと仲良く過ごされていることを願うばかりです。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)
【監修・伊東ゆうからの告知】
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