新人の万引きGメンが、勤務中に万引き! 警察官の前で彼女がひた隠す「見られちゃいけないもの」とは?
待ち合わせ場所である店舗の裏口前に到着すると、見たことがないほどに憔悴された社長が、異常なほど蒼い顔をした営業部長と一緒に待っていました。このクライアントが、会社の売り上げの4割を占めていることを思えば、それも無理のないことといえるでしょう。
防災センターの扉を開くと、店長と駅ビルの警備隊長、それに男女2人の警察官に囲まれたMさんが、盗んだと思しき商品を並べた応接テーブルの横で床に伏して丸まっていました。軽く背中を叩きながら声をかけても、まるで反応しないので、店長を外に連れ出して状況を確認します。
「商品をロッカーに入れていたので声をかけました。本社の指示で警察を呼んで、おまわりさんが所持品を確認したら、ロッカーにあったバッグからも商品が出てきたんですよ。そこまでは普通にしていたんですけど、そのバッグの中にあった化粧ポーチに警察官が手をつけた途端に暴れて、それを取り上げてうずくまっちゃって。もうかれこれ10分くらい、この状況です」
「そうでしたか。誠に申し訳ございません」
「これ以上に、なにか見られちゃいけないものがあるんですかね。おたくの社員さん、大丈夫ですか?」
被害品は、化粧品や健康食品など計6点、合計で1万2,000円ほど。この店で扱う商品のなかでも、ひと際高額な商品ばかりを盗んでおり、その悪質性は否定できません。それよりも、仲間であるはずである私たちの呼びかけにも応じることなく、ひたすらにうずくまって化粧ポーチを守り続ける理由が気になります。
「Mさん、頼むから、これ以上の迷惑はかけないでくれ。大事なお客様のところで、いいかげんにしてくれよ。私も一緒に謝ってあげるから、頼む」
怒りに体を震わせながら、極力冷静に声をかける社長でしたが、Mさんは反応しません。業を煮やして、社員みんなで腕を取って立たせようとしても、より強固に身を丸めて抵抗してきます。その様子を黙って見ていた警察官が、嫌気の差した呆れ顔で言いました。
「見ての通り仕方ないので、まずは窃盗の現行犯で逮捕して、詳しく調べようと思います。ちょっと時間かかっちゃいますけど、被害届は出していただけますよね?」
「わかりました。こうなったら、とことんお付き合いします」
警察に対して全面協力を申し出た店長に、再度深々と頭を下げた社長が言いました。
「この度は、本当に申し訳ございません。何卒、穏便にお願いいたします!」
「穏便に? もう遅いでしょう。本社にも報告しちゃったし」
素気ない店長の様子に、失望を隠せない社長でしたが、警察官は構うことなく事務的に事を進めていきます。