サイゾーウーマンコラム悪女の履歴書「男の宿命的な性」への憎しみ コラム 高橋ユキ【悪女の履歴書】 夫殺し未遂の女医が語った「男の宿命的な性」への憎しみ――女たちの同情を集めた公判【神戸毒まんじゅう殺人事件:後編】 2021/05/04 19:00 高橋ユキ(傍聴人・フリーライター) 悪女の履歴書 gettyimagesより 1939年(昭和14)4月26日、兵庫県の西側にあるM病院で副院長を務める橋本義男(仮名・当時28)のもとに神戸大丸からカルカン饅頭が届いた。義男と実弟と、実妹の職場の人間がそれを食したところ、全員がチフスに罹患。義男は一時期重体となるも回復したが、実弟はのちに死亡した。饅頭の表面にはチフス菌が塗られていたのである。カルカン饅頭を送りつけたのは、義男の内縁の妻である女医の永尾花子(同・当時29)だった。 花子は、細菌研究所からチフス菌の培養器3基を持ち出し、饅頭に全て塗りつけてから発送していた。饅頭を使い毒殺しようとした相手は、義男だった。第二次世界大戦勃発の年にありながら、世間の耳目を大いに集めたこの事件は、一般傍聴席の8割が女性で占められていたという。女性の関心を集めたのは、この事件が義男の裏切りをきっかけとしていたものだったからだろう。 3日続いた公判の終盤、検察官は殺人ならびに同未遂罪として花子に無期懲役を求刑したのに対し、裁判所はのちに、傷害ならびに同未遂罪とし、懲役3年の判決を言い渡した。当然ながら検事はこれを不服として控訴。舞台は大阪控訴院に移った。 ▼前編はこちら▼ 内縁の夫が「新たなる妻を迎えようとした」……傍聴に人々が殺到した、殺害未遂の女医の告白【神戸毒まんじゅう殺人事件:前編】世間を戦慄させた事件の犯人は女だった――。平凡に暮らす姿からは想像できない、ひとりの女による犯行。自己愛、欲望、嫉妬、劣等感――罪に飲み込まれた闇をあぶり出す。 ...サイゾーウーマン2021.05.03 憎しみを抱いた決定的な言葉 そんな大注目の控訴公判で花子は、チフス饅頭を送りつけるまでの気持ちの揺れを、さらに詳しく証言した。学位取得後の義男に抱いた“ほかの女と結婚しようとしているのでは”という疑念の根拠をこう明かす。 「私が下宿を訪れると、私の下駄を隠したり、知らない女と一緒に写した写真があったり、使途が怪しい貯金通帳が出たり、いまから考えるとどうしてもっと疑わなかったのかと思います」 そうしてついに義男から告げられたのだという。 「自分は近く見合い結婚をしようと思うからお前とは別れる。自分は学位など欲しくなかった。学資などはいらぬお節介だった」 花子の方もこう言われたときすでに、義男への愛は憎しみに変わっていた。訴訟を起こし社会的制裁を加えようと画策し、最終的に7,000円で解決したが「その結果はあまり橋本が苦しんだようにみえなかったので私の心は決して晴れませんでした」(控訴院での証言)という。 そんな中、ふと花子の心は動いた。 「なんとなしにチフス菌に心が惹かれて。これを前にして念じていると、橋本にそれが通じてチフスにかかるような気持ちがしました」 「4月ごろ、弁護士先生のお宅でお菓子をいただいているとき、ふとこんなお菓子にチフス菌を塗ったら、憎い橋本に復讐ができると思いました」 二つの思いつきにより実行したチフス饅頭による毒殺事件だったというが、しかし花子は義男を苦しめようという気持ちはあっても殺すつもりはなかったとも述べた。 次のページ 義男の言い分「彼女は女としてのたしなみがない」 123次のページ 楽天 たしなみについて 関連記事 「5歳児餓死事件」赤堀恵美子と同じく洗脳・支配……「福岡4人組保険金連続殺害事件」の死刑囚・吉田純子とは?「オレの正体をいま話して聞かせる」94歳オンナ詐欺師、最後の大ボラ! 商店街を主婦を巻き込む大脱走劇【岡山・高齢女性詐欺師:後編】94歳、“オンナ詐欺師”の仰天「ホラ吹き」人生ーー「年寄りには親切に」を逆手に【岡山・高齢女性詐欺師:前編】女詐欺師が語った「男性に愛されるための研究」と「男に可愛がられた私」の記憶【熊本:つなぎ融資の女王】ミイラ化した全裸死体ーー離婚した女二人の同居生活、消えた女と庭の遺体【藤沢つづら詰め殺人事件:前編】