芸能
[再掲]ドラマで気になるアノ男

嵐・櫻井翔、『ネメシス』での演技がヘタすぎる!? ドラマ評論家が指摘する“欠点”ゆえの持ち味

2021/04/25 20:30
成馬零一
『ネメシス』(日本テレビ系)公式サイトより

 広瀬すずと嵐・櫻井翔がダブル主演を務める連続ドラマ『ネメシス』(日本テレビ系)。「探偵事務所ネメシス」に在籍する“自称天才”のポンコツ探偵・風真尚希(櫻井)と、天才助手・美神アンナ(広瀬)の凸凹コンビが、難事件を解決していくミステリーエンターテインメントだ。

 櫻井にとっては、3年ぶりのドラマ主演とあって、ファンからは「待ってました」と喜ばれているが、一方で視聴者の間では、「櫻井の演技がヘタすぎる」「コントのように見える」など、の演技力に疑問の声が飛び交った。

 櫻井はこれまで、ドラマ『山田太郎ものがたり』(TBS系)『謎解きはディナーのあとで』『家族ゲーム』(ともにフジテレビ系)など、数々の人気ドラマに主演してきたが、世間的には、『news zero』(日本テレビ系)でのキャスター業の印象が強く、俳優としての特徴やポテンシャルを論じられてきたことは少ないのかもしれない。

 そんな中、ドラマ評論家の成馬零一氏は、過去にサイゾーウーマンで、俳優・櫻井翔についてを考察。「櫻井の演技は基本的に軽くて平坦だ」と、その欠点を述べ、「記号的なキャラクターを演じる際にはすさまじいポテンシャルを発揮する」と評していた。

 『ネメシス』での櫻井の演技が物議を醸している今、あらためて同記事を掲載する。このコラムを読んだ上で、ぜひ『ネメシス』を観賞していただきたい。
(編集部)


(初出:2017年10月30日)
嵐・櫻井翔『先に生まれただけの僕』で持ち味になった、役者としての「欠点」

 日本テレビ系で土曜午後10時から放送されている『先に生まれただけの僕』は、総合商社から高校に出向してきた35歳の青年が、校長として経営を立て直そうとする異色の学園ドラマだ。主人公の鳴海涼介を演じるのは、嵐の櫻井翔。脚本は木村拓哉が型破りの検事を演じた『HERO』(フジテレビ系)や、大河ドラマ『龍馬伝』(NHK)といった作品で知られる福田靖。

 福田の脚本は、明るい社会派とでも言うようなテイストで、少し癖のある型破りの変人キャラの主人公が周囲をかき乱しながら、問題を解決していくという物語を得意としている。本作も、商社マンが校長として学校の経営に挑むという物語を入り口に、今の学校が抱える奨学金制度やいじめの問題などを扱い、重たい題材を軽快に見せることに成功している。その意味で福田作品で一番近いのは、沢村一樹演じる医師が病院の立て直しを行う『DOCTORS~最強の名医~』(テレビ朝日系)ではないかと思う。

 しかし、普段の福田脚本にある全編を通しての喉越しの良さが、今作では感じられない。見ている時の緊張感も後味の悪さも普段とは段違いだ。理由はチーフ演出の水田伸生の演出だろう。坂元裕二・脚本の『Mother』(日本テレビ系)や『Woman』(同)を筆頭に、ハードな社会派ドラマを得意とする水田の映像は暗くて重苦しいものとなっている。

 福田のライトな脚本を、水田が重苦しく演出しているため、チグハグなところがいくつかあるのだが、それが予定調和で終わらない緊張感をドラマに与えていて、面白い相互作用を起こしているように思う。コメディ色の強い脚本家・宮藤官九郎と『ゆとりですがなにか』(同)を手掛けた時も、宮藤の軽さと水田の重々しい演出が相互作用を起こして面白いドラマとなっていたが、本作にも同じことがいえるだろう。

 とはいえ、軽さと重さという正反対の要請が脚本と演出から来るのだから、演じる役者は大変ではないかと思う。特に、櫻井翔が演じる鳴海というキャラクターはこの作風の象徴のような存在で、軽さの中に重たい内面が見え隠れする難しい役どころだ。そのため、演技のさじ加減が難しいと思うのだが、鳴海の中にある分裂した要素を見事に統合している。これは櫻井にしかできないことではないかと思う。

 俳優としての櫻井翔を初めて意識したのは2002年の『木更津キャッツアイ』(TBS系)だ。

 本作は5人の若者の青春群像劇で、櫻井が演じた「バンビ」というあだ名の青年は、1人だけ童貞で、他4人とは違って大学生でもあり、体育会系のグループの中に1人だけいる繊細で頭のいい醒めた男の子という立ち位置だった。しかし、実際に出来上がった作品では、そういうキャラ設定はあまり生きてなくて、仲間に溶け込んで一緒に盛り上がっている末っ子の弟分的な立ち位置となっていた。それはそれで、当時の櫻井の持つ初々しいかわいらしさが出てきて魅力的だったので結果オーライだったが、バンビを演じるには、当時の櫻井には演技力が足りなかったのだろうと今は思う。

 それは09年の『ザ・クイズ・ショウ』(日本テレビ系)にも同様のことがいえる。この作品で櫻井は、軽薄なトーンで人の心の闇をえぐっていく冷酷なクイズ司会者を演じた。ニュース番組の司会をやるような知性派の櫻井に、露悪的なトリックスターを演じさせたいという作り手の意図はわかるのだが、与えられた役柄の奥にある「凄み」を、櫻井が演じきれているとは思わなかった。

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