ソープ嬢の万引き犯、ボストンバッグから出てきた大量の○○……女性警察官も同情した身の上とは?
事情を説明すると、すぐに無線で女性警察官を呼び出し、その到着を待って事務所に向かいます。女性警察官による入念な所持品検査の結果、女のボストンバッグからは私が現認した商品のほか、大量の錠剤が出てきました。女が盗んだ財布を手にした男性警察官が、それを見ながら女に尋ねます。
「この財布、男モノみたいだけど、どうするつもりだったの?」
「付き合っていた男にだまされて……。たくさんお金をとられて捨てられたんです。お店にも借金ができちゃったから、夜の仕事で頑張って払っているんですけど、コロナで暇になっちゃったから全然足りなくて」
「売るつもりだったってこと?」
「はい、すみません。彼と会うには、お店に行くしかなくて、お金が必要だったんです」
その後、耳に入った警察官と女の会話を整理すると、女はソープランドで働く風俗嬢。付き合っていたという男はホストクラブで働く男のようで、多額の金を貢がされた上に捨てられてしまい、いまは客としてしか会ってもらえないということでした。
「この薬は、なに?」
「……安定剤と眠剤です」
「なんで、こんなにたくさん持ち歩いているの?」
「いまの仕事を始めてから拒食症になっちゃって、夜も眠れないんです。お金もないし、どこかで死ねたら、それを飲もうと思って」
なにかの麻薬ではないかと勘繰った警察官たちでしたが、錠剤のパッケージに製品名が記されており、それをスマホで検索することで疑いは晴れました。女の話に嘘がないことで同情したのか、女性警察官が慰めるように背中を擦ると、心ここにあらずといった様子で空を見つめていた女の目から涙があふれ出ます。ティッシュを差し出して涙を拭わせると、ずれた袖口から、複数の切り傷がつけられた手首が見えました。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)