『おちょやん』杉咲花演じる千代の“鬱展開”は史実よりマシ!? ドラマより救いがない夫・渋谷の外道っぷり
浪花に替わって渋谷の2番目の妻になった九重も、渋谷に対して「お金でなんとかなる玄人の女性とだけ浮気はして」「ヨソで子どもを作ることだけはやめて」の2点を守るように頼んでいたようです。
一方、浪花は渋谷に対して「ヨソで子は作らないで」くらいしか言えていなかったのかもしれませんね。渋谷のことを、浪花は深く愛しすぎていました。しかし渋谷は浪花との約束を破り、九重という新人女優を妊娠させてしまったのです。
九重は、松竹芸能が「タカラヅカ」を真似たOSK(大阪松竹歌劇団)という女性だけの劇団の元男役で、松竹芸能から「客を呼べるスターにするように」と、松竹新喜劇が世話を任されていた女性でした。ですから、浪花にとっては、2人に裏切られた感は強かったでしょうね。
ただ、当時の劇団を知る人たちの複数の証言から見て、浪花は「ふだんは我慢強いが、芸に対しては厳しく、口やかましい」……そういう、お局型の女優になっていたようです。多くの若い女優たちは、そんな浪花に気圧され、成長できないままでした。
おそらく、妊娠事件がなければ、九重もただの若手女優の一人として終わったでしょう。実際に、九重が女優という仕事にかける熱量はそう高くはなかったようです。妊娠出産後には女優をすんなり引退、渋谷天外夫人として夫の創作活動を支える影の存在となっています。
それとは真逆の頑張り型女優の浪花は、夫・渋谷天外からすれば、頼れる戦友ではあったでしょうが、妻としては見ることができない存在になっていたのでしょう。
意外かもしれませんが、渋谷と浪花の離婚は九重の出産後、しばらくしてからのことでした。それはつまり、九重の生んだ渋谷の子を自分たち夫婦の養子にもらえるのなら、離婚しない。退団もしない。結婚生活を守りたいと、浪花が最後まで粘ったことを意味しているように思われます。
残念ながら、浪花の頑張りは実を結ばず、渋谷は実子を生んだ九重をパートナーに選びました。パートナーと書いたのは、2人が長い間、正式には結婚しなかったからです。ちなみに、両者の結婚は事実婚をスタートさせて同居してから約8年も後のことです。すでに第2子(後の3代目・渋谷天外)も生まれた状態での電撃婚(?)でした。