『おちょやん』杉咲花演じる千代の“鬱展開”は史実よりマシ!? ドラマより救いがない夫・渋谷の外道っぷり
現在放送中のNHK連続テレビ小説『おちょやん』。ヒロインの千代は、喜劇女優の浪花千栄子さんをモデルとしていて、浪花さんの自伝『水のように』(朝日新聞出版)に登場する人々や逸話を巧みに再構成して出来上がった作品です。そんなドラマの登場人物の“本当の話”を、『あたらしい「源氏物語」の教科書』(イースト・プレス)などの著作を持つ歴史エッセイストの堀江宏樹氏が解説!
20世紀中盤の演劇史に名を残す、2代目・渋谷天外。
NHKの朝の連続ドラマ小説『おちょやん』の主人公・千代(杉咲花さん)の夫、天海一平(成田凌さん)のモデルです。「何でうちやあれへんの?」(第20週)の放送では、千代の後輩女優・灯子(小西はるさん)に手を出し、妊娠させていることまで判明しました。
千代と一平夫妻がうまくいっているように見えていたので、破局しないという話になればいいなぁ……と思っていたけれど、甘かったですね。残念ながら、史実に即した鬱展開になってしまいました。
しかし、今回は「救いがないように見える」ドラマのほうが、史実よりも「よほどマシだったんだよ」という悲しいお話です。
史実においても、浪花千栄子(千代のモデル)の後輩女優を妊娠させた時、浪花の夫・渋谷天外には反省の色などほとんど見えなかったようです。当時、史実の松竹新喜劇の看板女優は、名実ともに浪花でした。浪花のファンが来てくれるから、劇団は黒字になっていたにもかかわらず、です。
浪花は、渋谷から感謝されるどころか、苦労ばかりさせられていました。彼女には、こんな証言があります。
「あの人(=渋谷)、女性関係がとても多くて、もらったお金はほとんどそちらへ(略)。天外の名をよごさぬよう、(浪花は)なるべくお芝居して(外見を)つくろって」いたのだそうです。
こんなリアルすぎるエピソードも、浪花は語っています。
「役者の楽屋へはいろんな女が出入りしますがな。ある女が、主人がおらんとき、主人の座ぶとんにすわり、主人の鏡台で顔なおしてたら、そらァもう、完全にできてますな。間違いなし」(以上、「週刊読売」昭和40年9月号)
渋谷が九重京子(灯子のモデル)を妊娠させるまでも、彼が劇団内の女優に手出しするのは日常茶飯。しかも、芸者にも貢いでいたので、夫の稼ぎの大半は女関係に費やされてしまっていた。
夫の浮気相手が女優だった場合は、さらにつらかった。座長の妻である浪花を差し置いて、浮気相手の女が大胆な行動に出ることもしばしばで、それに気づいていても、泣く泣く、自然に振る舞い続ける必要が浪花にはあったというわけですね。
ドラマより、史実のほうが、よほどひどかったことがわかります。渋谷と浪花の夫婦関係が破綻しなかった理由は、ただ一つ。渋谷が、ヨソの女との間には子どもを作らなかったからです。