『ザ・ノンフィクション』「放送1000回SP 前編」、目の前の一日に人間が必死に向き合う生々しさ
番組名物と言えるテーマソング「サンサーラ」は03年から6人、2組のアーティストに歌い継がれている。番組ファンにはおなじみのサビのメロディは、番組プロデューサーがインド旅行中に浮かんだものだという。
「サンサーラ」という言葉も本来はサンスクリット語で「輪廻」という意味のようだが、番組ナレーションではサンサーラの意味を「繰り返す命の営み」と説明していた。たしかにこちらのほうがずっと『ザ・ノンフィクション』らしいと、番組ファンとしては思う。生き死にの長いスパンをどこか遠くから見下ろしているのではなく、目の前の一日に人間が必死で向き合う生々しさこそ『ザ・ノンフィクション』だと思う。
番組初期と今の違いをナレーションに見る
現在『ザ・ノンフィクション』は女性芸能人のナレーションが多いが、初期のころは男性局アナが務めることが多かったようだ。さらに、その話し方も感情を抑制した、どこか物々しさを感じるナレーションで、それが番組の雰囲気に実にあっていた。
のどかな日曜の午後に、こんな雰囲気の番組が始まれば「何事だ」と視聴者は思うだろう。日曜昼にどかんとやって驚かせてやる、と番組スタート時の意気が感じられてなかなかよかった。
今は先述の通り女性芸能人がナレーションを務めることが多い。話す内容も優しく、登場人物に寄り添うようなものが多い。今の時代が寄り添い、優しさを求めている、という番組側の判断もあるのかもしれない。同じように、NHKの『ドキュメント72時間』も、ナレーションに優しさが感じられる。
しかし個人的には淡々と、感情を出さずに対象から距離をとってドライに伝えているナレーションのほうが、『ザ・ノンフィクション』の濃すぎる内容とマッチしているように思う。さらに言えば『ザ・ノンフィクション』の題字も、最近リニューアルしたものではなく、以前の物々しい字体のほうが好きだ。
こんなふうに、いちファンがあれこれ言いたくなるくらい、のどかな日曜の午後に変化球を投げてくる『ザ・ノンフィクション』。これからも繰り返される人間の営みを大切に見ていきたい。
放送1,000回となる次週は今回の後編。なお、前後編の区切りは東日本大震災。番組は震災で何がどう変わった、ととらえたのか。
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