仁科友里「女のための有名人深読み週報」

吉本興業から“報復”を受けた? ハラスメントに抗議して1人になった加藤浩次に、いま伝えたいこと

2021/03/11 21:00
仁科友里(ライター)

吉本興業に抗議も、結局は辞めなかった加藤浩次

 誰もがハラスメントを含めた差別のない世界を望んでいるだろう。もちろん私もその1人だが、差別を一気になくすことは簡単ではないと思っている。なぜなら、たいていハラスメントには利権が絡んでいるから、構造そのものを改革しないとトカゲのしっぽ切りで終わってしまう可能性がある。また、ハラスメントを告発したことで、告発者が不利益を被らないとは言い切れない。もし告発した人がバカを見るようなことがあれば、誰もが口をつぐんでしまうから、ますますハラスメントはなくならないだろう。

 そういう意味で、私が注目していたのは、加藤浩次だった。

 2019年、闇営業問題で吉本興業を解雇された雨上がり決死隊・宮迫博之は、その後、自分で会見を開き、ロンドンブーツ1号2号の田村亮とともに吉本から圧力をかけられたと暴露した。2人はいち早く釈明会見を開きたかったが、岡本昭彦社長に「会見するなら、(闇営業に関わった芸人を)全員クビ」と言われたという。また、亮によると、会見を全編ネット配信したいという要望に対し、吉本側は「テレビ局の在京5社、在阪5社は吉本の株主だから大丈夫」と話し、テレビ局と吉本興業の“結びつき”の強さを示唆したそうだ。これはつまり、会見のネット配信を阻止し、吉本の意向に沿った内容をテレビ局に放送させる……という意味にも取れるだけに、宮迫と亮は吉本からパワハラを受けたと考えられる。

 そんな中、おそらくギャラの取り分なども含めて、吉本に思うことがいろいろあったのだろう、加藤は自身がMCを務める情報番組『スッキリ』(日本テレビ系)で、岡本社長や大崎洋会長を批判し、この体制が変わらなければ「俺は吉本を辞める」と発言していた。ネットユーザーは加藤の発言を称賛していたような印象があるが、加藤は大崎会長と2人で話した結果、エージェント契約を結ぶことになり、吉本を辞めることにはならなかった。

 若い世代は特に、「不正に声を上げて、会社を変えていくべき」「声を上げれば、悪しき体制は変わる」と考えがちだろう。しかし、そうした世界を描いたドラマ『半沢直樹』(TBS系)が大ヒットするのは、現実社会に半沢直樹がいないからだ。


KAMINOGE vol.49 加藤浩次の行き着く先−。/KAMINOGE編集部【編】