「いくら認知症とはいえ理解できない」母のことが大好きだった父……老人ホームで「母に激しい暴力を振るう」
真山さんは一安心したものの、それまで尊敬していた義父に会いたい気持ちがなくなってしまった。
「息子が結婚したので、その報告がてら息子と娘を連れて帰省したのですが、義母のところにはお見舞いに行っても、義父には嫌悪感があって顔を出す気になれませんでした」
義母に、義父のところにも行ってあげてほしいと頼まれて、渋々見舞いに行った真山さんは、再びキツネにつままれたようだった。
「義父もまた元の穏やかな人に戻っていたんです。義母に激しい暴力を振るったあげく、大好きだった義母に会えなくなったというのに、そんなことは何もなかったかのように穏やかに会話している……本当にあの暴力は何だったんでしょう?」
ただ、義父は孫娘の顔を忘れてしまっていた。孫息子の嫁だと思っていたという。
「初めて会うような挨拶をしていました。認知症だから、忘れるのは仕方ないです。ただ、昔から義父にとっては息子が一番でした。娘は二番目の子どもだし、女だからだと思うんですが、息子をかわいがる様子とは明らかに扱いが違っていたんです。そんなことを思い出してしまうほど、義父は娘の存在が薄かったんだなと思いました。おじいちゃんのことが好きだった娘がかわいそうになりました」
義父の心の底にある、女性に対する何か――それが義母への暴力に表れたのかもしれない、ちらりとそんな気持ちにもなる、と真山さんはつぶやいた。
もうひとつ、義父母のことが落ち着いてから、真山さんが知ったことがある。義姉は義母の様子がおかしくなったころガンが見つかり、体調に不安を抱えながら義父母のもとに通っていたというのだ。
「義父母にはもちろん、夫にも何も言わずに一人ですべてやってくれていたんです」
結局、真山家の男はハナからあてにされていなかった、と真山さんは肩をすくめて笑った。