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コロナ禍の今こそ読みたい! 近現代の作家たちの“死生観”から死への「うろたえかた」を見つめ直す『正しい答えのない世界を生きるための死の文学入門』
2021/03/03 16:30
加えて本書の特筆すべきもう一つのポイントは、中盤以降は新型コロナウイルスの感染拡大下で書かれたことだろう。2020年にあらためて世界的なベストセラーとなったカミュ『ぺスト』から、現代にも通じる不条理との向き合い方を抽出し、ブッツァーティ『七階』やフーコー『監獄の誕生』から、人の生死を管理・監視するシステムが生む連帯感や分断の功罪を鮮やかに示す。コロナ禍で生まれた新たな不安に寄り添うような、まさに今読まれるにふさわしい作品が多く取り上げられている。
本書には、わかりやすく「正しい死との向き合い方」が書かれているわけではない。タイトルにも明示されているように、それらに「正しい答えはない」のかもしれない。しかし、「死」という暗く深い穴のふちにとどまり、考え続けた人々の思索や想像の歴史から、死に対する「うろたえかた」のバリエーションを知ることはできる。それは、不安を抱えたまま進まざるを得ない人々にとって、歩みを助ける杖のように時に力強い支えになるものだ。
現代は、魅力的なエンターテインメントにあふれ、過去の文学など手に取らなくても十分生きていける時代だ。しかし激動の時代をくぐり抜け、それでも今に残った古典名作には、個人ではコントロールできない世界的な災いや病、それらからくる死の不安を受け止め、共に生きてくれる強度を携える作品も数多ある。本書は、そんな今日に生きる人々のための作品・作家を見つけるための助けになってくれるだろう。
(保田夏子)
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最終更新:2021/03/03 16:30