コラム
老いゆく親と、どう向き合う?

“良妻賢母”の代表のような母が……「冷蔵庫がしゃべる」「テレビが動く」と訴える、明らかな変化

2021/02/21 18:00
坂口鈴香(ライター)

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)

 そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。

写真ACより

 前回の「アル中で寝たきりになった父と、10年の介護――離婚しても見捨てなかった『母の意地』」で、サイゾーウーマン編集部から「それが本当に母の意地だったのか、いつか本心を聞いてみたい」と言われた。アル中で、いつも母親に暴力をふるっていた父親が寝たきりになり、その晩年にようやく離婚しながらも、母親は10年間在宅で介護したのだ。娘の東野晴美さん(仮名・51)は、「それは母の意地だったのでしょう」と言ったが、本当のところはどうだったのか。

義父は義母のことが大好きでした

 そこで改めて東野さんに聞いてみた。「お母さんはお父さんを介護したことについて、何かおっしゃっていますか?」。東野さんからはこんな答えが返ってきた。「今、認知症になった母には父の良い思い出しかありません」と。

 映画にもなったコミックエッセイ、『ペコロスの母に会いに行く』(西日本新聞出版)で、主人公のペコロスこと著者の岡野雄一さんは認知症になった母について「ボケるとも悪か事ばかりじゃなか」ともらした。岡野さんの父親も若いころアル中ぎみで、母親に暴力もふるっていた。「認知症になって忘れることができて、幸せなこともある」という状況は、東野さんのお母さんにも当てはまる気がした。

 それにしても、と改めて思う。夫婦って不思議だ。

 東野さんの両親とは逆のケースもある。それが、今回紹介する真山昌代さん(仮名・56)の夫の両親だ。

 「義父は義母のことが大好きでした」。真山さんは遠くを見るように言う。

義母の様子がおかしくなった

 真山さんの夫は東北出身。真山さん家族は結婚以来ずっと東京で、夫の姉も北海道で暮らしている。真山さんの義父母は2人で仲良く暮らしていたが、数年前に義父が認知症になった。膝の悪い義母が在宅での介護を続けられなくなったため、夫と義姉が話し合い、義父を有料老人ホームに入れることにした。

 それからしばらくすると、義母の様子がおかしくなった。

「おしゃれな人だったんですが、だんだん身なりを構わなくなったんです」

 義父は教師だった。厳格で、休日でも小ぎれいな恰好をして、背筋を伸ばして本を読んでいたという。専業主婦だった義母は、朝起きるとすぐに化粧をし、家の中を常にきちんと整え、夫と子どもに尽くしてきた。良妻賢母の代表のような人だった。

 ところが厳格な義父がいなくなり、生活のハリをなくしたのか、義母は変わっていった。身なりに構わなくなっただけでなく、食事の用意も、掃除も片付けもしなくなっていた。

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