【連載】堀江宏樹に聞く! 日本の“アウト”皇室史!!

宮内庁職員は「両陛下への態度が馴れ馴れしすぎる」と女官激怒! 大騒動を呼んだ宮中「魔女狩り」ミステリー

2021/02/20 17:00
堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

今城さん「両陛下への態度が馴れ馴れしすぎる!と怒り」

 今城さんは若い頃から、伝統重視で知られる貞明皇太后のところで働いていたのですが、ここは戦後になっても、京都に天皇がいた時代の御所言葉が守られていた。貞明皇太后のところに用事に行った、昭和天皇の女官が感化されて、「ごきげんよう」ではじまる挨拶さえ長々しく続くような御所言葉で話していると、昭和天皇が「そんな世間で使われていない言葉で話すものじゃない!」とイラつきをあらわにした事件もあったそうです。

――昭和天皇のほうが御所言葉を拒否されたのですか。NHK連ドラの「花子とアン」でも「ごきげんよう~」で挨拶を始めるのには、相手の幸せを祈るという言霊的な意味があると言っていたような……。

堀江 御所言葉の元々の目的もそれですね。ただ、「○○さんは、今日もごきげんよろしゅう、あらしゃって……」とか本当に長いんですよ、ご挨拶だけでも(笑)。それに昭和天皇は科学者でもいらっしゃるので、ご疑問をお感じだった、と。ただ、晩年の昭和天皇の周囲でも御所言葉の名残は生き残っており、健康検査で天皇の採尿というとき、「おじゃじゃ」を取るとかいうのです。

――おじゃじゃ(笑)?

堀江 まぁ、それはまた後の機会に。皇太后が崩御なさった1951年(昭和26年)以降、今城さんは宮中に転任し、天皇・皇后両陛下のもとで働くことになりました。かなり空気が違ったようで、「両陛下への態度が馴れ馴れしすぎる!」と宮内庁職員に怒っていたという記録もありますね。これは今城さんの養女の美佐恵さんという方の証言ですが。


 一方で、天皇皇后両陛下も戦前にくらべると、非常に民間との触れ合いが盛んになっていた。しかし、天皇がもっとも重視すべきは、ご公務と称して、日本全国に顔を見せてまわることではなく、「宮中祭祀では?」という考えは、当時の保守的な知識人の中にはありました。

――なんだろう、アイドルファンの不満と近いですね。テレビ出演とコンサート、どっちがアイドルの本分なの? と意見が分かれるところのようです(笑)。

堀江 三島由紀夫なんかはね、天皇の仕事は、「お祭り、お祭り、お祭り(※祭祀の意)」であって、いわば神聖天皇から、人間天皇となってしまった、戦後の昭和天皇には批判的でした。アイドルでいえば、テレビ出演で不特定多数にコビを売るようなことはやめてくださいと(笑)。
そんな天皇なら宮中で殺して、自分も自害したいなどと三島は言っていたそうです(笑)。敬愛をこじらせてしまったのでしょう。

――一緒に死んでしまいたい、なんて(苦笑)。

堀江 今城さんが入江氏から魔女と蔑まれるのは、入江氏にとって宮中祭祀はいくら大事でも、天皇の命と引き替えにすべきような問題ではないと考えていたからでしょう。


 昭和天皇の健康維持を重視する入江侍従長には、「健康を犠牲にしてでも、天皇には祈ってほしい、それが天皇の第一のつとめであるから……」という今城さんは魔女に見えた。また、心身の健康を崩されがちだった皇后陛下を、まるで洗脳=マインドコントロールして迫ってくる今城さんは、入江氏にはいっそう苦々しく思えた。だから彼女を魔女呼ばわりしてしまったのでしょう。

――皇室らしいスピリチュアルな問題に絡んでいるのが、魔女事件の本質なのですね。その後、侍従長がどのように魔女狩りを行ったのか……? 次回に続きます!

堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。著書に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『眠れなくなるほど怖い世界史』(三笠書房)など。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)。

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最終更新:2021/02/20 17:00
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