『ザ・ノンフィクション』日本最高齢ストリッパーとファンたちの日々「私が踊り続けるわけ ~53歳のストリッパー物語~」
愛美はとてもアイドルとしての力が強いと思った。まず表現力の高さだ。愛美の踊りについて星組の複数の人が「何も言えない」「言葉にならない」と言葉にできない思いを話していたが、これは愛美の表現力が凄まじく高いことの表れだと思う。
言葉にすると安っぽくなる、言葉にするとこぼれ落ちてしまうようなものを受け取れるから、ファンは何度も劇場に足を運ぶのだろう。よくオタクは「尊い」と言い、この言葉は少々安売りされている気もしなくもないが、愛美の踊りはまさに「尊い」のだろう。
そしてさらに、愛美の踊りの表現力だけでなく、愛美という人自体にも、強いアイドル性を感じる。後輩の「後光がさしてる」という言葉は大げさではないのは番組を見ていて伝わった。
愛美は、かつて荒んだ生活をしていたのが信じられないくらい、どこか神々しい。愛美は荒れていた過去について「きっちりとした生きていく土台ができていない、どんどん世の中に背を向けているのは自分でもわかった」と話していたが、今の愛美は「きっちり生きている」どころか、星組の人たちに生きる喜びを与え、「救って」さえいる。
どう生きればこんな人になれるのだろうと人を立ち止まらせ、魅了するところにも、アイドルとしての強さを感じる。
そして愛美のこんな「超人的」なところも、アイドルとしてとても強いと思う。愛美はファンに自分の愛飲するコーヒーを宅配便で送ったり、ファンの誕生日にはお祝いのメッセージカードを贈ったりなど、細やかなファンサービスをしているのだが、それで調子に乗って「痛ファン」になるような厄介なファンは、愛美の周囲には出てこないように思える。
星組の面々は愛美のことを尊敬していて、愛美にいい意味で一線を引いているのがよくわかる。愛美の迷惑になりそうなことを星組はしないだろうと信じられるのだ。「ファンの民度が高い(良識的なファンの存在感が強い)」というのはそのアイドルの力を測る大きな指標になると思う。
アイドルという存在は、時にファンから過剰な思いまで背負わされる。さまざまなオタク業界で「痛いファン」「変なファン」「空気の読めないファン」に悩まされているアイドルや表現者は少なくないと思う。なので、「自然とファンをひざまずかせる(そして、ひざまずくファンはきっとこの上ない幸せを感じている)」愛美の能力はアイドルとしてかなりのものだと思った。しかし、これは愛美の53年で培った人生が醸し出すものであり、一朝一夕でマネできるものではないだろうとも思った。
次週の『ザ・ノンフィクション』は、「ボクらの丁稚物語 ~泣き虫同期 4年の記録~ 前編」。このご時世で、入社すればケータイも恋愛も、酒もタバコも禁止。さらに男女の区別なく、みんな丸刈り、という丁稚制度を貫く家具製作会社「秋山木工」。同社に入った若者たちの記録。
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