『子どもを連れて逃げました。』刊行記念トークイベント・西牟田靖×上條まゆみ

「24年前、男性用の抱っこひもはなかった」「別れても一緒に子どもを育てる」離婚を取材するライターが語る、子育てと社会の変化

2021/01/28 16:00
サイゾーウーマン編集部

サイゾーウーマン連載のルポ「別れた夫にわが子を会わせる?」をまとめた著書『子どもを、連れて逃げました。』(晶文社)を、2020年11月に上梓したノンフィクションライターの西牟田靖さん。同書の出版を記念して、100人以上の女性に離婚・結婚観を聞いてきたフリーランスライター・上條まゆみさんとのトークイベントがB&Bで行われた。その内容をレポートする。

上條まゆみさん(左)と西牟田靖さん (C) サイゾーウーマン

話してくれたことを、丸ごと受け止めたいと思った

上條まゆみさん(以下、上條) 『子どもを連れて、逃げました。』は、男性が描く女性の離婚ですが、8つのパターンが載っているので、読む人もどれかには共感できると思います。書き方として、質問に対して答えがあり、女性のセリフをそのまま載せているので、読み手としては、男性の方に解釈されるよりもストレートに伝わると思います。

西牟田靖さん(以下、西牟田) 今回の出版の経緯としては、この本の前に、『わが子に会えない』(PHP研究所)という本を出しました。子どもと別れて暮らす男性18人に取材してまとめた本です。そもそも自分が2014年3月に離婚に至り、引きちぎられるようなつらさがあったんです。心理的に、自分自身がずっと否定されるつらさがあったので、周りに助けを求めました。ネットで検索すると、共同親権運動ネットワーク、親子ネット、別居親の自助団体などが出てきて、交流会に足しげく出席するうちに、自分だけじゃないと知って楽になりました。

 僕の場合は、面会条件も公正証書を作って別れたのですが、交流会で会った人の中には、家に帰ると誰もいなくなっていたというケースもありました。旦那だけ追い出されて、向こうの親と妻が子どもを殺してしまったケースや、男性側の証言では、妻が浮気したのに、子どもの親権を得るためにDVの冤罪をかけられたというケースもありました。

 僕みたいに合意して離婚しても10キロ痩せるぐらいなのに、もっと大変な思いをしている方がいっぱいいて、ライターとしてこういう問題を伝えていかないといけないと思いました。それで、『わが子に会えない』の出版後に、4〜5本の媒体から取材を受けた中に「サイゾーウーマン」からのインタビューもありました。親子断絶防止法がどうなるか盛り上がった時期で、批判的なトーンでインタビューに来たんです。そのときに、「男性の言い分ばかり聞いているけれど、一緒に暮らしている女性に、なぜ話を聞かないのか?」と言われたのがきっかけで、連載が始まりました。冤罪とおぼしきケースや、一方的に妻が子を連れていったケースを集めようと思ってもなかなか集まらないので、少し広げて、同居親(子どもと同居している母親)というカテゴリーで書いてみることになったんです。


 Q&Aという形式をとったのは、男性である僕が口挟みながら書くと、伝わらない気がしたし、取材相手はわざわざ出てきてくれているので、話してくれたことを丸ごと受け止めたいと思ったからです。書籍化するときは、テーマを俯瞰的にするために、時系列をシャッフルして、テーマの説明と解説を書き、前書きと後書きをつけました。テーマを串刺しにするために、自分自身の生い立ちを書くことで、まとまりをつけました。

 連載時にはモラハラや暴力を受けて、大変な思いをして話してくれている、その人たちを傷つけたくないという思いで、自分の言葉をあまり入れませんでした。自分は別居親という立場だから、取材相手が僕を別れた夫と重ね合わせて、僕が何げなく言った言葉が不用意なトラウマを呼び起こすことはないか気にして、プレーンな状態で書きました。それで、書いている途中に、自分が公平に書いているつもりでも、傷つけてしまったりしないか考えて、書いては消しをずっとやっていて時間がかかってしまいました。

子どもを連れて、逃げました。