「みんな死にました」スーパーの男子トイレで弁当を食らう万引き犯は、東日本大震災の被災者だった
状況把握のため、店長に同行を願い、犯行現場である男性用トイレの状況を確認しにいくと、扉を押し開けた店長が個室内をあごで指差すようにして言いました。
「また、やられてるよ。ほら、これみて!」
個室内を覗き込むと、うなぎ弁当と寿司の空パケのほか、ビールやエナジードリンクの空き缶、空になったハーゲンダッツのパックなどが、物置台やペーパーホルダーなどの上に放置されていました。床を見れば、割りばしやタレなどのパッケージ、アイスのフタなどが散乱しており、好き放題にやってくれている状況です。
「これは、ちょっとひどいですね」
「そうでしょう? 好きなだけ飲み食いして、片付けもしないでさ。本当に、腹が立つよ。しかし、こんなに臭いところで、よく食べられるよなあ。おれなんて、息もしたくないくらいなのに」
「このお弁当は、いつの商品ですか?」
「昨日の夜に出しているやつだね。最後の掃除が午後10時だから、それ以降の時間だよ。きっと、また来ると思うから、注意してみて」
現在時刻は、午前10時。朝一番から、おちおちと休憩にも入れない状況に追い込まれ、なんとなく落ち着かない気持ちで現場に入った私は、出入口とお弁当売場を中心に巡回することにしました。
(あら、変わった人ねえ)
昼のピークを過ぎて、従業員の皆様が休憩を取り始めた午後1時頃、どことなく四千頭身の後藤拓実さんに似ている20代と思しき小太りの男性が目に止まります。鼻につけた輪っかのようなピアスが気になったのです。目に入った瞬間、いつもの癖で男性の風体を確認すると、耳や口、眉のあたりなどにも無数のピアスが刺さっているのが確認できました。ベテラン保安員であれば誰もが感じることだと思いますが、いわゆる違和感がある人を見つけた時には、自然と心がざわつきます。注意しなければダメな人だよと、体が教えてくれるのです。
自分の直感を信じて、カゴを持つことなく両手をズボンのポケットに突っこんだまま店内を歩く後藤さんの後を追うと、お弁当売場に直行しました。そこで、まぐろづくしのにぎり寿司(1,200円)を2パックと海鮮あんかけ焼きそば(498円)、それにとろろそば(298円)を手に取って重ね持つと、ドリンク売場に向かって行きます。
(この人、トイレの人だ)
冷蔵棚の扉を開けた後藤さんが、ドリンクを手にした瞬間、まもなく犯行に至る確信を得ました。トイレの個室内に放置されていたエナジードリンク(198円)と、まったく同じドリンクを手に取ったのです。続けて、乳製品が並ぶ冷蔵品コーナーでカマンベールチーズ(368円)とシュークリーム(148円)を手に取った後藤さんは、人気のない階段を上がっていきました。気付かれぬよう踊り場を駆使して追尾すると、そのまま3階のトイレに入ってしまいます。男性用トイレに入るわけにもいかないので、近くにいた従業員の方に店長を呼び出してもらい、到着されるまでの間、トイレの出入口を見守ることにしました。