『ザ・ノンフィクション』うつ病を抱える夫、支える妻の生活「シフォンケーキを売るふたり ~リヤカーを引く夫と妻の10年~」
今回の番組を見ていて心配に思ったのが、哲のように精神的に苦しい状況下にある人が、彼の言動に影響され「自分も……」と、起業など大胆な手段を考えてしまわないだろうか、ということだ。
まず、哲には献身的に支えてくれるかおりがいる。それに哲自身も、もともとやり手のビジネスマンで、切れ者だ。
今、コンビニやスーパーで買えるたいていのスイーツは、ほぼおいしいと言っていい。そのような中で、高くもないが安くもない値段で、「またあの店のシフォンケーキが食べたい」と思わせるのは、相当な力量が必要で、哲の努力によるものだろう。“多産多死”の業界である飲食で、シフォンケーキ一本で10年商売を続ける、というのは凄まじいことだ。リヤカーのキャラ立ちといい、『ザ・ノンフィクション』のスタッフに取り上げよう、と思わせるところまでも含め、“力量”だと思う。
精神的に厳しい状況にある人ほど、「起死回生の画期的な大改革」にすがりたくなるのではないか。その気持ちはわかる。だが、そのような状況下では「決断」も良いものになりにくいのではないだろうか。
哲の場合は「かなり例外的な幸運ケース」にも思える。かといって、つらい状況がただ過ぎるのを待つというのも、地獄なのだろう。
過去の『ザ・ノンフィクション』で、大阪の精神科診療所「アウルクリニック」の活動を取り上げた回で、精神科医の片上は患者に対し「(心の問題を)ゼロにせんでもいいかもしれん。ゼロにせんでも(心と体の状態が)エエわを目指す」と話していた。つらい時ほど劇的解決ではなく、ちょっとだけラクになる「ま、エエわ」の思考が大切に思える。
次週のザ・ノンフィクションは『母さん、もう一度 闘うよ ~高校中退…息子たちの再起~』。甲子園、プロを目指すような野球エリートの少年たちが、いじめやトラブルにより高校を中退した「その後」の話。
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