芸能
『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』うつ病を抱える夫、支える妻の生活「シフォンケーキを売るふたり ~リヤカーを引く夫と妻の10年~」

2021/01/18 17:57
石徹白未亜(ライター)

 この放送は賛否両論が出そうな回だったが、考えさせられるという点では良い放送だったと思う。賛否の内容とは、「いい夫婦だった」という肯定的なものと「かおりがかわいそう」といったものだ。

 哲は池袋で行われるイベントの際、自宅の青梅から池袋までを、車や電車で行けばいいのに、普段と同じようにリヤカーを引いていくなど、融通が利かない。そのしわ寄せは、池袋の寒空の下で、到着時間を過ぎても姿を見せない哲を待つかおりにきている。リヤカーを引き、ようやく池袋に着いた哲は、「ビールが飲みたい」と呑気なことを話していて、私がかおりならこれはたまらないなと思った。哲の生活は、こうしたさまざまなかおりの献身の下で成り立っている。

 一方、番組で見る哲の表情は、穏やかな笑顔なのだが顔のどこかが硬くこわばっているのがわかる。表情一つ見ても、哲は精神的に今も際どいバランスの上にいて、その中でやれることをして、生計を立てているのだろうと思う。そしてかおりが誰よりもそれを理解していることも伝わるのだ。

 番組の途中で、哲との生活について、スタッフがかおりに「幸せか」「楽しいか」「満足しているか」と、さまざまな言葉で問いかけていた。それらの言葉には、どれもうなずくことのなかったかおりは、哲との生活を「面白い」と回答していた。哲に比べ、表情が随分疲れていたかおりが、日々を「面白がれる」のはいいことだと思うが、個人的にはかおりに少しでも「ラク」になってほしい。

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