『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』北川悦吏子氏の脚本は「不安」!? “朝ドラ大炎上”から繙く革命的な表現手法
本作は時代考証の“ファジーさ”で有名だが、神はのたまう、《思い出せないことは、書けない》《仕方ないんだよ》と。「なつかしネタ」の情報ソースは神の記憶とTwitterの民からのタレコミのみ。さすがは全知全能の神である。下々の者の営みの記録である「史実」など調べる必要はないのだ。
神のツイートから窺い知れる「語弊? 知るかよ」の精神、バブル型スノビズムと軽やかな足取りで地雷を踏み抜く作法は、そのままドラマの台詞に表出している。2010年代も終盤に差しかかった今日、権威主義、容姿至上主義、マイノリティへの差別・偏見がたっぷり盛り込まれた台詞を「トレンディ霊力」でふんわり押し切るという作家性は唯一無二といえよう。ポエティックな台詞回しも持ち味のひとつで、「鈴愛の口は羽より軽い」「あの出会いは宝石のように輝いていました」「その性根は腐っていました」などの、フットボールアワー後藤なら「ようこれ世に出したな。陶芸家なら割るやつやで」とツッコむであろう推敲なし……あ、いや、ライヴ感あふれる台詞で楽しませてくれる。さらに、「どちゃくそ」「〜的にあり/なし」など周回遅れの若者スラングを時代背景に関係なく「使いたいから使う」というあたりも「オカンアート」のデコパージュに突如STUSSYのロゴ入れちゃいました的な目新しさがある。
こうした脚本における神の奔放さ、チェック機能とコントロールの無効ぶりをみるに、NHKは本作に限って特例的にコンプライアンスを取っ払ったのではないか、とさえ思えてくる。現に制作スタッフは、豊川悦司、原田知世をはじめ過去の北川作品出演者を脇に起用し、神の母校である岐阜県立加茂高等学校でロケを敢行し、神が個人的にヒロイン役の永野芽郁にプレゼントしたカエル柄のワンピースをストーリーに押し入れることを容認し、神が大ファンだという中村雅俊を鈴愛の祖父役に据え必然性なく劇中で歌わせるなど、神を喜ばせるために奔走した。これはもはやNHKさん、「接待」ではありませんか? いやはや、天下のNHKをも意のままに操る神の「トレンディ霊力」に畏怖の念を禁じ得ない。
《褒めて!讃えて!》《いい?!あなたは私を肯定するためにいる!》――今日も神はTwitterで「称賛」という名の供物を求めお叫びになる。民はひれ伏し、受信料を払い、56歳にして“少女のような感性”を持った神の大掛かりな「リカちゃん遊び」を毎日視聴し、「神からの引用RT」という尊き授かり物にあやかるために感想ツイートを投稿し続けるのだ。とにかく我々は今、希有な視聴体験をしている。これは間違いない。
※文中《 》内は北川悦吏子氏のツイートから引用。省略以外は原文ママ。
佃野デボラ(つくだの・でぼら)
ライター。くだらないこと、バカバカしい事象とがっぷり四つに組み、掘り下げ、雑誌やWebに執筆。生涯帰宅部。