コラム
高橋ユキ【悪女の履歴書】
94歳、“オンナ詐欺師”の仰天「ホラ吹き」人生ーー「年寄りには親切に」を逆手に【岡山・高齢女性詐欺師:前編】
2021/01/29 17:00
この老女は詐欺に手を染めるようになる前、真面目に働き、恋人もいた。
明治23年、長野県で酒造業を営む家の長女として生まれたトミヨは、高等女学校を出て上京。文京区の美術学校に進学した。在学中に美形の東大生と恋に落ちたものの、教師の資格試験に合格したことから、郷里に戻り、小学校で教鞭を振るった。
当時は、その給料の大半を、恋人に送金していた。ところが恋人は東大を卒業すると仕事の都合で樺太暮らしになってしまう。居ても立っても居られないトミヨは彼を追い樺太へ。ようやく彼の住む家を探し当てたが、すでに妻帯者となっていたことがわかる。
極寒の地でひとり恋に破れ、自暴自棄になったトミヨは、教師を辞め、そののち窃盗と横領で逮捕される。以後数十年間、次々に罪を重ねていった。そして逮捕の3年前、岡山にたどり着く。
トミヨがとった手段は「自分には金がある」と見せることだった。老い先が短いと思わせるため、年齢も偽った。
結城紬の対の着物に、つづれの帯。杖をコトコトと鳴らして運ぶ足には真新しい白足袋が光る。隙のない贅沢な身なりで、商店街を歩き回り、たどり着いたのは川沿いの「素泊まり500円」の旅館。この宿帳に〈滝本キヨ 94歳〉と達筆をふるう。本当の年齢よりも10歳上にサバを読んでいる。
「ひえ〜っ、ご隠居さん、94歳ですかぁ……」
旅館の女将は仰天した。この年齢で一人旅とは、事情があるのか?