万引きGメンが語る「最も印象に残った万引き犯2020」! 「私……ここの従業員なんです」おばちゃんは嗚咽を漏らして
「とりあえず会計してくるから、そっちの仕事、先に済ませちゃって」
事務処理を終わらせるべく、身分を確認させていただくと、これしかないとのことで社員証を提示されました。雇用主からすれば、これほど嫌な社員証の使われ方もないだろうと思いつつ話を聞けば、この店のオープンから21年以上にわたって勤務されているそうで、今日で退職することになりそうだと涙ながらに頭を抱えています。立ち上げメンバーは店長と彼女の2人しか残っていないと話しているので、この店では店長に次ぐ立場にある方といえ、今後の展開が気になりました。すると、会計を済ませても、なお、動揺と興奮を隠せないでいる店長が、声を震わせて言います。
「こんなに盗って、初めてじゃないよね? 怒らないから、正直に話してくれる?」
「はい。正直言うと、来るたびにやっていました」
「はあ? 21年、ずっとってこと?」
「はい、すみません。私、きっと病気なんです。うわーん」
泣き伏せるおばちゃん3号を尻目に、ポケットからスマートフォンを取り出した店長は、今後の処理について本部の意向を確認し始めました。彼女にとっては、この上なくシビアな会話の内容に違いありません。人によっては自傷行為などに及ぶこともあるため、なるべく耳に入れないよう、いくつか質問をして気を逸らせます。
「同じことで警察に行ったことはありますか?」
「はい。近所のYとMで、1回ずつ……」
「どうして盗っちゃうのかしらね」
「買うのがもったいないっていうか……。きっと病気なんでしょうね、私」
結局、本部の判断により即時解雇となったおばちゃん3号は、長年勤めてきたことから温情が与えられ、警察を呼ばれることなく処理されました。民事上の賠償請求もしないというので、結果だけをみればヤリ得のような結末です。今回の事実を記した退職届を書き終え、帰宅を許されたおばちゃん3号は、護送車に載せられる被疑者のようにハンドタオルで顔を隠しながら立ち去っていきました。自転車にまたがり、逃げるように走り去る彼女の背中を見届けた店長が、ぼそりとつぶやきます。
「参ったなあ。ただでさえ人手不足なのに、明日から大変だよ」
「そうですよね。本来であれば、内部不正の摘発は本部の許可を得てからするものなんですが、気付かなかったものですから……。余計な面倒をかけて申し訳ありません」
「いえ、長い付き合いだったし、あんな人だとは思っていなかったからショックだけど、仕方ないです。あ、面接の人に連絡して、明日から来てもらうことにしよう」
業務を終えて駅に向かうと、駅前のロータリー脇に設置されたベンチに、一人地面を見つめるおばちゃん3号の姿がありました。気付かれぬよう、早足で改札を通過した次第です。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)